昭和62年02月20日 民集41.1.122
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【項目】 ①同一人の再度の同一内容での住民監査請求の可否 ②違法不当な財務会計行為等の是正を求める住民監査請求においては、これに基づく実体法上の請求権行使を怠る事実を監査請求対象に含むか否か ③上記②の怠る事実に係る住民監査請求の請求期間 ④住民監査請求の意義と監査委員の権能 |
【要旨】 ①同一住民が同一の財務会計上の行為又は怠る事実を対象として再度の住民監査請求をすることは許されない ②首長その他の財務会計職員の財務会計上の行為を違法、不当としてその是正措置を求める住民監査請求は、特段の事情がない限り、当該行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使を違法、不当とする財産の管理を怠る事実についての監査請求をもその対象として含むものと解すべきである ③首長その他の財務会計職員の財務会計上の行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実とする住民監査請求については、右財務会計上の行為のあった日又は終わった日を基準として地方自治法242条2項の規定を適用すべきである ④住民監査請求制度の意義、住民監査請求は住民主張の事由以外について監査できる |
【事実関係】 町有地を第三者に随意契約で売却したことについて、複数回の住民監査請求がなされたが、1・2回目は違法に廉価な売却であるとして、3回目は首長に損害賠償請求を、売却先に不当利得返還請求等をなすことを怠っているとするものであった。1・2回目の監査請求は、請求の対象となる財務会計行為のあった日から1年以内に行われたが、3回目の監査請求は1年を経過した後に行われた |
【関連判例】 (監査請求期間の原則) 昭和53年06月23日 集民124.145 (真正怠る事実の監査請求期間(制限なし)) 平成07年02月21日 集民174.285 (概算払の監査請求期間) 平成09年01月28日 民集51.1.287 (昭和62年判例の例外:請求権が抽象的な場合の起算点) 平成14年07月02日 民集56.6.1049 (真正怠る事実と不真正怠る事実の区分(談合入札)) 平成14年07月16日 民集56.6.1339 (支出負担行為・支出命令・支出の請求期間始期) 平成14年07月18日 集民206.887 (平成14年07月02日と同様事案) 平成14年10月03日 民集56.8.1611 (職員の談合関与に係る真正怠る事実と不真正怠る事実) 平成14年10月15日 集民208.157 (賃貸借契約の監査請求期間の始期) 平成19年04月24日 民集61.3.1153 (請求権を消滅させた職員への請求に対する監査請求期間) (監査請求と住民訴訟の当事者・請求内容の関係) 平成10年07月03日 集民189.1 (監査請求と異なる相手方・内容での住民訴訟) (再度の監査請求) |
【判決文の抜粋】 地方自治法…242条1項の規定による住民監査請求に対し、同条3項の規定による監査委員の監査の結果が請求人に通知された場合において、請求人たる住民は、右監査の結果に対して不服があるときは、法242条の2第1項の規定に基づき同条の2第2項1号の定める期間内に訴えを提起すべきものであり、同一住民が先に監査請求の対象とした財務会計上の行為又は怠る事実と同一の行為又は怠る事実を対象とする監査請求を重ねて行うことは許されていない【要旨①】ものと解するのが相当である。所論は、先の監査請求と同一の行為又は怠る事実を対象とする監査請求であっても、新たに違法、不当事由を追加し又は新証拠を資料として提出する場合には、別個の監査請求として適法である旨主張するが、かかる見解は採用することができない。けだし、住民監査請求の制度は、普通地方公共団体の財政の腐敗防止を図り、住民全体の利益を確保する見地から、当該普通地方公共団体の長その他の財務会計職員の違法若しくは不当な財務会計上の行為又は怠る事実について、その監査と予防、是正等の措置とを監査委員に請求する権能を住民に与えたもの【要旨④】であって、監査委員は、監査請求の対象とされた行為又は怠る事実につき違法、不当事由が存するか否かを監査するに当たり、住民が主張する事由以外の点にわたって監査することができないとされているものではなく【要旨④】、住民の主張する違法、不当事由や提出された証拠資料が異なることによって監査請求が別個のものになるものではないからである。また、住民監査請求の制度は、住民訴訟の前置手続として、まず当該普通地方公共団体の監査委員に住民の請求に係る行為又は怠る事実について監査の機会を与え、当該行為又は当該怠る事実の違法、不当を当該普通地方公共団体の自治的、内部的処理によって予防、是正させることを目的とする【要旨④】ものであると解せられるところ、法242条の2第1項は、「普通地方公共団体の住民は、前条第1項の規定による請求をした場合において、……裁判所に対し、同条第1項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、訴えをもって次の各号に掲げる請求をすることができる。」と規定し、住民訴訟は監査請求の対象とした違法な行為又は怠る事実についてこれを提起すべきものとされているのであって、当該行為又は当該怠る事実について監査請求を経た以上、訴訟において監査請求の理由として主張した事由以外の違法事由を主張することは何ら禁止されていないものと解せられる。したがって、主張する違法事由が異なるごとに監査請求を別個のものとしてこれを繰り返すことを認める必要も実益もないといわざるを得ない。 右と同旨の見解に立ち、原審の適法に確定した事実関係の下において、上告人…の第2回監査請求は第1回監査請求の反復であって不適法であるとした原審の判断は、正当として是認することができる。… 普通地方公共団体の住民が当該普通地方公共団体の長その他の財務会計職員の財務会計上の行為を違法、不当であるとしてその是正措置を求める監査請求をした場合には、特段の事情が認められない限り、右監査請求は当該行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権を当該普通地方公共団体において行使しないことが違法、不当であるという財産の管理を怠る事実についての監査請求をもその対象として含む【要旨②】ものと解するのが相当である。 これを本件についてみるに、原審の適法に確定したところによれば、上告人…の第1回及び第2回監査請求は、被上告人○が○町長として町有財産たる本件土地を随意契約により被上告会社に売却した行為につき、右売却処分は時価に比較して著しく低額の代金をもってしたものであって違法であり、○町の財政運営上多大の損失を生じさせるものであるとしてその是正措置を求めたものであるところ、右上告人らの第3回監査請求は、本件土地売却処分を違法、無効なものであるとし、これに基づき、○町は被上告人○に対し損害賠償請求権を、被上告会社に対し不当利得返還請求権ないし本件土地所有権移転登記の抹消登記請求権を行使し得るのに、これをしないでいるのは違法に財産管理を怠る事実に該当するとしてされたものである、というのである。 右事実関係によれば、上告人…が第3回監査請求の対象とした怠る事実は実質的に第1回監査請求のうちに含まれていたものとみるのが相当である。したがって、右上告人らの第3回監査請求は第1回監査請求の反復であって不適法であるとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。 … 普通地方公共団体において違法に財産の管理を怠る事実があるとして法242条1項の規定による住民監査請求があった場合に、右監査請求が、当該普通地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計上の行為を違法であるとし、当該行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としているものであるときは、当該監査請求については、右怠る事実に係る請求権の発生原因たる当該行為のあった日又は終わった日を基準として同条2項の規定を適用すべき【要旨③】ものと解するのが相当である。けだし、法242条2項の規定により、当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過した後にされた監査請求は不適法とされ、当該行為の違法是正等の措置を請求することができないものとしているにもかかわらず、監査請求の対象を当該行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使という怠る事実として構成することにより同項の定める監査請求期間の制限を受けずに当該行為の違法是正等の措置を請求し得るものとすれば、法が同項の規定により監査請求に期間制限を設けた趣旨が没却されるものといわざるを得ないからである。 右と同旨の見解に立ち、上告人…の第3回監査請求及び上告人…の監査請求は法242条2項所定の請求期間を徒過したものとして不適法であるとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。 |