平成10年07月03日 集民189.1

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【項目】

ある財務会計上の行為又は怠る事実について住民監査請求において求めた具体的措置の相手方とは異なる者を相手方として右措置の内容と異なる請求をする住民訴訟の許否

【要旨】

住民訴訟においては、その対象とする財務会計上の行為又は怠る事実について住民監査請求を経ていれば、右監査請求において求めた具体的措置の相手方とは異なる者を相手方として右措置の内容と異なる請求をすることも許される

【事実関係】

町とAとの間の議会の議決を経ない土地交換契約に関し、当該土地の所有権一部移転仮登記(第二登記)権利者Bと当該土地の抵当権設定登記(第三登記)権利者であるCを被告とする前記各登記抹消を求める住民訴訟を提起。原審は、訴訟に先立つ住民監査請求では、(一)本件監査請求書の請求の趣旨には、本件契約の違法不当を理由として、(1)本件土地につき訴外Aを権利者とする所有権移転登記(第一登記)の抹消登記手続を求め、本件土地の返還をさせ、(2)本件土地を取り戻すことができないときは、損害賠償金1500万円を町長及びAに連帯して支払わせる措置を請求する旨が記載されている、(二)本件監査請求がBに対する第二登記及びCに対する第三登記を直接その対象としている事実は認められず、右監査請求と本件訴えにおけるB、Cに対する請求は、あくまでも別個のものであって、実質的にみても同一性のあるものとは解されないから、本件訴えは、監査請求を経ておらず、不適法である、として訴えを却下

【関連判例】

昭和62年02月20日 民集41.1.122 (請求外事項に対する監査権限)

【判決文の抜粋】

 住民訴訟につき、監査請求の前置を要することを定めている地方自治法242条の2第1項は、住民訴訟は監査請求の対象とした同法242条1項所定の財務会計上の行為又は怠る事実についてこれを提起すべきものと定めているが、同項には、住民が、監査請求において求めた具体的措置の相手方と同一の者を相手方として右措置と同一の請求内容による住民訴訟を提起しなければならないとする規定は存在しない。また、住民は、監査請求をする際、監査の対象である財務会計上の行為又は怠る事実を特定して、必要な措置を講ずべきことを請求すれば足り、措置の内容及び相手方を具体的に明示することは必須ではなく、仮に、執るべき措置内容等が具体的に明示されている場合でも、監査委員は、監査請求に理由があると認めるときは、明示された措置内容に拘束されずに必要な措置を講ずることができると解されるから、監査請求前置の要件を判断するために監査請求書に記載された具体的な措置の内容及び相手方を吟味する必要はないといわなければならない。そうすると、住民訴訟においては、その対象とする財務会計上の行為又は怠る事実について監査請求を経ていると認められる限り、監査請求において求められた具体的措置の相手方とは異なる者を相手方として右措置の内容と異なる請求をすることも、許されると解すべきである。

 これを本件についてみると、原審の確定した事実関係によれば、本件監査請求においては財務会計上の行為として(町長)による本件契約の締結が明示されており、本件訴えにおいてもその点に何ら変わりはないのであるから、請求の内容及びその相手方が監査請求におけるものと異なるからといって、本件訴えが監査請求前置の要件に欠けるということはできず、本件訴えは適法というべきである。