平成14年07月18日 集民206.887

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【項目】

市から建設の委託を受けた施設について日本下水道事業団が発注した設備工事に関し談合をした業者らに対する不法行為に基づく損害賠償請求権の行使を怠る事実に係る住民監査請求に地方自治法242条2項の規定が適用されないとされた事例 (14.7.2民集56.6.1049参照

【要旨】

日本下水道事業団が市から建設の委託を受けた施設の設備工事を業者に発注した場合において,業者らが談合した結果,同事業団と業者との間で不当に高額の代金で工事請負契約が締結され,委託者として最終的にその工事請負代金を負担する市に損害を与えたことが,上記業者らの市に対する不法行為に当たり,市は上記業者らに対し損害賠償請求権を有しているのにその行使を怠っているとしてされた住民監査請求には,地方自治法242条2項の規定は適用されない

【事実関係】

市が日本下水道事業団(事業団)に委託した各下水道施設建設工事について,事業団がX年1月29日からX+1年2月18日までの間にA1会社又はA2会社との間で請負契約を締結して発注した各電気設備工事に係る工事請負代金が,談合によって不当につり上げられ,市がこれを負担することにより損害を被ったとし,市は,談合をしたA1,2ら及びこれに加功した事業団に対し,不法行為による損害賠償請求権を有しているにもかかわらず,その行使を違法に怠っているとして,市に代位して,怠る事実に係る相手方に,損害賠償を求めている事案。原告は,X+2年11月27日に監査請求をした

【関連判例】

(監査請求期間の原則)

昭和53年06月23日 集民124.145 (怠る事実の監査請求期間(制限なし))

昭和62年02月20日 民集41.1.122 (不真正怠る事実の監査請求期間の原則)

平成07年02月21日 集民174.285 (概算払の監査請求期間)

平成09年01月28日 民集51.1.287 (昭和62年判例の例外:請求権が抽象的な場合の起算点)

平成14年07月02日 民集56.6.1049 (真正怠る事実と不真正怠る事実の区分(談合入札))

平成14年07月16日 民集56.6.1339 (支出負担行為・支出命令・支出の請求期間始期)

平成14年10月03日 民集56.8.1611 (職員の談合関与に係る真正怠る事実と不真正怠る事実)

平成14年10月15日 集民208.157 (賃貸借契約の監査請求期間の始期)

平成19年04月24日 民集61.3.1153 (請求権を消滅させた職員への請求に対する監査請求期間)

【判決文の抜粋】

 監査請求の対象事項のうち財務会計上の行為については,当該行為があった日又は終わった日から1年を経過したときは監査請求をすることができないものと規定しているが,上記の対象事項のうち怠る事実については,このような期間制限は規定されておらず,怠る事実が存在する限りはこれを制限しないこととするものと解される。もっとも,特定の財務会計上の行為が財務会計法規に違反して違法であるか又はこれが違法であって無効であるからこそ発生する実体法上の請求権の行使を怠る事実を対象として監査請求がされた場合には,当該行為が違法とされて初めて当該請求権が発生したと認められるのであるから,これについて上記の期間制限が及ばないとすれば,本件規定の趣旨を没却することとなる。したがって,このような場合には,当該行為のあった日又は終わった日を基準として本件規定を適用すべきものである(最高裁昭和57年(行ツ)第164号同62年2月20日第二小法廷判決・民集41巻1号122頁参照)。しかし,怠る事実については監査請求期間の制限がないのが原則であることにかんがみれば,監査委員が怠る事実の監査をするに当たり,当該行為が財務会計法規に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にない場合には,当該怠る事実を対象としてされた監査請求に上記の期間制限が及ばないものとすべきであり,そのように解しても,本件規定の趣旨を没却することにはならない最高裁平成10年(行ヒ)第51号同14年7月2日第三小法廷判決・民集56巻6号1049頁参照)。

3 本件監査請求の対象事項は,市が事業団及び上告人らに対して有する損害賠償請求権の行使を怠る事実であるところ,当該損害賠償請求権の発生原因は,上告人らが事業団から工事の発注予定金額等の呈示を受けて談合をした結果に基づいて,上告人A1及び同A2電機が事業団と不当に高額の工事請負代金で請負契約を締結し,本件各委託工事の委託者として最終的に上記工事請負代金相当額を負担することになる市に対し,公正な競争により形成されたであろう請負工事代金額と談合によりつり上げられた請負工事代金額との差額相当の損害を与える不法行為を行ったというものである。これによれば,本件監査請求について監査を遂げるためには,監査委員は,上記談合行為等があったか否か,これにより上記差額が生じたか否かを検討するとともに,市が本件各委託工事を委託するために事業団との間で締結した委託協定の内容,委託費用の支払経過等を明らかにして,市が本件各発注工事の工事請負代金を最終的に負担させられ損害を被ったか否かを検討しなければならないこととなる。しかしながら,市と事業団との間における委託協定の締結や委託費用の支払等の財務会計上の行為が財務会計法規に違反する違法なものであったとされて初めて市の事業団及び上告人らに対する損害賠償請求権が発生したと認められるものではなく,監査委員は,上記のような談合行為等とこれに基づく事業団と上告人A1及び同A2電機との請負契約の締結が不法行為法上違法の評価を受けるものであること,これにより市に損害が発生したことなどを確定すれば足りるのであるから,本件監査請求は市の財務会計上の行為を対象とする監査請求を含むと解さなければならないものではない。したがって,本件監査請求を本件規定の適用がない怠る事実に係るものと認めても,本件規定の趣旨が没却されるものではなく,本件監査請求については本件規定による監査請求期間の制限が及ばないものと解するのが相当である。前掲第二小法廷判決の示した法理は本件に及ぶものではない。