平成14年07月16日 民集56.6.1339

住民監査請求の要件審査実務において重要な最高裁判所判例集 トップ&目次 ⇒ こちら

【項目】

支出負担行為,支出命令,支出についての監査請求期間の始期

【要旨】

公金の支出を構成する支出負担行為,支出命令及び支出については,地方自治法242条2項本文所定の監査請求期間は,それぞれの行為のあった日から各別に計算すべきである

【事実関係】

本件は,X年8月21日から9月9日までの日程で実施された議会欧州行政視察旅行は,その実体は単なる観光旅行であって,その旅費等の支出は地方財政法4条1項等に違反する違法なものであるとして,住民が県に代位して,議員の旅費等の支出負担行為兼支出命令をしたA1及び随行員の旅費等の支出負担行為兼支出命令をしたA2に対し,各旅費等相当額の損害の賠償を請求する4号訴訟。本件の各支出負担行為兼支出命令をしたのはX年8月9日であり,原告がこれらにつき監査請求をしたのはX+1年8月13日

一審は監査期限徒過・正当理由不在により訴えを却下したが,原審は,上記各支出負担行為兼支出命令に基づいて現実に旅費等の支出がされたのはX年8月18日であるところ,現実の支出は,支出命令を財務会計上の行為として現実化し,支出命令を外部的に完成させ,その適否及びそれによる地方公共団体の損害の発生の有無を客観的に判断することを可能にする支出命令と一体の行為と解すべきであるから,上記監査請求の期間は現実の支出の日から計算すべきであり,同監査請求は請求期間を遵守した適法なものであって,本件訴えも適法であると判断

【関連判例】

(監査請求期間の原則)

昭和53年06月23日 集民124.145 (真正怠る事実の監査請求期間(制限なし))

昭和62年02月20日 民集41.1.122 (不真正怠る事実の監査請求期間の原則)

平成07年02月21日 集民174.285 (概算払の監査請求期間)

平成09年01月28日 民集51.1.287 (昭和62年判例の例外:請求権が抽象的な場合の起算点)

平成14年07月02日 民集56.6.1049 (真正怠る事実と不真正怠る事実の区分(談合入札))

平成14年07月18日 集民206.887 (平成14年07月02日と同様事案)

平成14年10月03日 民集56.8.1611 (職員の談合関与に係る真正怠る事実と不真正怠る事実)

平成14年10月15日 集民208.157 (賃貸借契約の監査請求期間の始期)

平成19年04月24日 民集61.3.1153 (請求権を消滅させた職員への請求に対する監査請求期間)

【判決文の抜粋】

(1) 住民監査請求は,財務会計上の行為又は怠る事実を対象として行われるものであるところ,行為についての監査請求は,当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過したときは,これをすることができないものとされている(地方自治法242条2項本文)。そして,ここにいう当該行為とは,具体的な個々の財務会計上の行為をいうものと解される。

(2) 公金の支出は,具体的には,支出負担行為(支出の原因となるべき契約その他の行為)及び支出命令がされた上で,支出(狭義の支出)がされることによって行われるものである(地方自治法232条の3,232条の4第1項)。これらのうち支出負担行為及び支出命令は当該地方公共団体の長の権限に属するのに対し,支出は出納長又は収入役の権限に属するのであり,そのいずれについてもこれらの者から他の職員に委任等により各別に権限が委譲されることがある。また,これらの行為に適用される実体上,手続上の財務会計法規の内容も同一ではない。このように,これらは,公金を支出するために行われる一連の行為ではあるが,互いに独立した財務会計上の行為というべきものである。そして,公金の支出の違法又は不当を問題とする監査請求においては,これらの行為のいずれを対象とするのかにより,監査すべき内容が異なることになるのであるから,これらの行為がそれぞれ監査請求の対象事項となるものである。もっとも,公金の支出を構成するこれらの行為を併せて監査請求の対象とすることも許され,これらを明確に区別しないでされた監査請求が対象事項の特定を欠き不適法となるものではないが,これらにつき各別に監査請求をすることができることはいうまでもないところである。

 以上によれば,支出負担行為,支出命令及び支出については,地方自治法242条2項本文所定の監査請求期間は,それぞれの行為のあった日から各別に計算すべきものである。

(3) 本件は前記旅費等につき支出負担行為兼支出命令をした職員である上告人らに対し損害賠償請求をする住民訴訟であるから,これに前置すべき監査請求は各支出負担行為兼支出命令のあった日から1年以内にこれをしなければならないところ,前記のとおり,被上告人は,その日から1年を経過した後に監査請求をしたというのである。そうすると,本件の監査請求は,請求期間を経過した後にされたものというほかはない。そして,被上告人はX+1年2月13日には上記旅費等の存在及び内容を知ったというのであるから,その日を基準にしても6箇月経過後にされた上記監査請求には,地方自治法242条2項ただし書所定の正当な理由もないことが明らかである。

3 以上のとおりであるから,本件訴えは,適法な監査請求を経たものとはいえず,不適法というべきであり…