平成19年04月24日 民集61.3.1153

 住民監査請求の要件審査実務において重要な最高裁判所判例集 トップ&目次 ⇒ こちら

【項目】

①財産の管理を怠る事実が終わった場合における当該怠る事実を対象とする住民監査請求と監査請求期間の制限

②財産の管理を怠る事実が終わった場合において当該怠る事実が違法であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としこれを対象としてされた住民監査請求と監査請求期間の制限

【要旨】

①財産の管理を怠る事実に係る実体法上の請求権が除斥期間の経過により消滅するなどして怠る事実が終わった場合には,当該怠る事実の終わった日から1年を経過したときはこれを対象とする住民監査請求をすることができない

②財産の管理を怠る事実(第1の怠る事実)に係る実体法上の請求権が除斥期間の経過により消滅するなどして怠る事実が終わった場合において,上記請求権の行使を怠り,同請求権を除斥期間の経過により消滅させるなどしたことが違法であるとし,第1の怠る事実が違法であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実(第2の怠る事実)とした上で,第2の怠る事実を対象とする住民監査請求がされたときは,当該監査請求は,第1の怠る事実の終わった日を基準として1年の監査請求期間の制限に服する

【事実関係】

町道改良工事請負業者への瑕疵修補に代わる損害賠償請求権の行使を怠り,約款所定の除斥期間経過で,請求権を消滅させ,町に損害をこうむらせたとする,町長に対する4号訴訟。経過としては

① 町は業者とX年11月24日,町道改良工事の請負契約を締結し,X+1年3月25日工事完了・引渡し。なお工請業者は,町が別業者に発注した測量設計図面に基づいて工事を施工

② X+2年2月10日,土壁構造物に変位が確認され,町はその修補費用8千万円余りを支出

③ 町は工請業者への損害賠償債権の保全措置を講じておらず,町の工事請負契約約款では,工請契約相手方への損害賠償請求権は,遅くともX+3年3月25日の経過をもって消滅

④ 町はX+4年4月,工事の設計図書を作成した業者(上記①の通り,工請業者とは別の者)を相手に上記支出に係る損害賠償訴訟を提起したが,X+8年11月15日,町の敗訴判決が確定(上記③の通り,工請業者への債権保全措置は行っていない)

⑤ 原告はX+8年12月10日に監査請求

【関連判例】

(監査請求期間の原則)

昭和53年06月23日 集民124.145 (真正怠る事実の監査請求期間(制限なし))

昭和62年02月20日 民集41.1.122 (不真正怠る事実の監査請求期間の原則)

平成07年02月21日 集民174.285 (概算払の監査請求期間)

平成09年01月28日 民集51.1.287 (昭和62年判例の例外:請求権が抽象的な場合の起算点)

平成14年07月02日 民集56.6.1049 (真正怠る事実と不真正怠る事実の区分(談合入札))

平成14年07月16日 民集56.6.1339 (支出負担行為・支出命令・支出の請求期間始期)

平成14年07月18日 集民206.887 (平成14年07月02日と同様事案)

平成14年10月03日 民集56.8.1611 (職員の談合関与に係る真正怠る事実と不真正怠る事実)

平成14年10月15日 集民208.157 (賃貸借契約の監査請求期間の始期)

【判決文の抜粋】

 地方自治法242条2項本文の規定(以下「本件規定」という。)は,同条1項の規定による住民監査請求のうち財務会計上の行為を対象とするものは,当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過したときは,これをすることができない旨定めている。これは,財務会計上の行為は,たとえそれが財務会計法規に違反して違法であるか,又は財務会計法規に照らして不当なものであるとしても,いつまでも監査請求ないし住民訴訟の対象となり得るものとしておくことは,法的安定性を損ない好ましくないことから,監査請求期間を,非継続的な財務会計上の行為については当該行為のあった日から,継続的な財務会計上の行為については当該行為の終わった日から,それぞれ1年間に限ることとしたものである(最高裁平成10年(行ヒ)第51号同14年7月2日第三小法廷判決・民集56巻6号1049頁参照)。このような本件規定の趣旨からすれば,財産の管理を怠る事実に係る実体法上の請求権が除斥期間の経過により消滅するなどして怠る事実が終わった場合には,継続的な財務会計上の行為の終わった日から1年を経過したときはこれを対象とする監査請求をすることができないのと同様に,怠る事実の終わった日から1年を経過したときはこれを対象とする監査請求をすることができない【要旨①】ものと解するのが相当である。また,上記の場合において,上記請求権の行使を怠り,同請求権を除斥期間の経過により消滅させるなどしたことが違法であるとし,当該怠る事実(以下「第1の怠る事実」という。)が違法であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実(以下「第2の怠る事実」という。)とした上で,第2の怠る事実を対象とする監査請求がされたときは,当該監査請求については,第1の怠る事実の終わった日を基準として1年の監査請求期間の制限に服する【要旨②】ものと解するのが相当である。なぜなら,前記のとおり,第1の怠る事実を対象とする監査請求は,第1の怠る事実の終わった日から1年を経過したときはこれをすることができないにもかかわらず,監査請求の対象を第1の怠る事実が違法であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使という第2の怠る事実として構成することにより,監査請求期間の制限を受けずに実質的に第1の怠る事実を対象とする監査を求めることができるものとすれば,本件規定が監査請求期間を制限した前記趣旨が没却されるといわざるを得ないからである。

 これを本件についてみると,原審の適法に確定した事実関係によれば,上告人らの監査請求は,A(注:町長)が,町のB(注:工請業者)に対する瑕疵の修補に代わる損害賠償請求権の行使を怠り,同請求権を除斥期間の経過により消滅させたことを違法であるとし,当該怠る事実が違法であることに基づいて発生する実体法上の請求権である町のAに対する損害賠償請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としているものである。そして,上告人らの監査請求は,Bに対する上記損害賠償請求権が除斥期間の経過により消滅したとされる日から1年を経過した後にされたものであるというのである。そうすると,上告人らの監査請求は,Bに対する上記損害賠償請求権の行使を怠る事実の終わった日から1年を経過した後にされた不適法なものというべきであって,本件訴えは,適法な監査請求の前置を欠く不適法な訴えとして却下を免れない。