平成09年01月28日 民集51.1.287
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【項目】 財務会計上の行為が違法、無効であることに基づく実体法上の請求権が右行為の時点では発生しておらず又はこれを行使することができない場合における右請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実とする住民監査請求の請求期間 |
【要旨】 財務会計上の行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実とする住民監査請求において、右請求権が右財務会計上の行為のされた時点ではいまだ発生しておらず、又はこれを行使することができない場合には、右実体法上の請求権が発生し、これを行使することができることになった日を基準として地方自治法242条2項の規定を適用すべきである |
【事実関係】 市・国鉄間で、国鉄を売主、市を買主とし、土地売買契約を締結し、移転登記がされた。本契約には、買主は右土地を所定の期間内は交番・多目的ホール敷地に供するものとし、買主が右土地を右用途以外に供したとき又は右期間内に第三者に譲渡したときは、売主は売買契約を解除することができ、右契約が解除されたときは、買主は売買代金の10分の1に相当する違約金を売主に支払うものとする特約条項があったが、本件土地は、国鉄の承諾を得ないまま、所定の期間内に第三者に売り渡され、所有権移転登記がされた。国鉄清算事業団は、市に対し、売買契約特約に違反して土地が転売されたことを理由に、契約を解除する旨の意思表示し、5千万円弱の違約金支払を催告したが、市はこれを争ったため清算事業団が市を提訴。市は、転売禁止条項は旧国鉄の要請により入れたもので法的拘束力がないという了解があったものであり、市に違約金支払義務なしとして請求棄却を求める答弁をした。その後、市が清算事業団に約1500万円を支払う裁判上の和解が成立し、市は同額を支払った。これに対し住民が、市長を被告として前記和解金を市の損害とする4号訴訟を提起。なお、住民訴訟に先立つ住民監査請求は、本件土地の第三者への転売日からは1年以上を経過していたが、前記和解成立、和解金支払日いずれの日からも1年以内になされたもの。原審は、住民監査請求が転売日から1年以上経過してなされていることを理由に、訴えを却下 |
【関連判例】 (監査請求期間の原則) 昭和53年06月23日 集民124.145 (真正怠る事実の監査請求期間(制限なし)) 昭和62年02月20日 民集41.1.122 (不真正怠る事実の監査請求期間の原則) 平成07年02月21日 集民174.285 (概算払の監査請求期間) 平成14年07月02日 民集56.6.1049 (真正怠る事実と不真正怠る事実の区分(談合入札)) 平成14年07月16日 民集56.6.1339 (支出負担行為・支出命令・支出の請求期間始期) 平成14年07月18日 集民206.887 (平成14年07月02日と同様事案) 平成14年10月03日 民集56.8.1611 (職員の談合関与に係る真正怠る事実と不真正怠る事実) |
【判決文の抜粋】 前記事実関係によれば、本件売買契約における特約に違反して本件土地の転売がされたとしても、それだけで当然に違約金請求権が発生するものではないとされているから、右転売行為の時点において直ちに○市が違約金相当の損害を被ったという余地はない。そうすると、右時点においては、転売行為が違法であることに基づく○市の被上告人に対する損害賠償請求権はいまだ発生していないことになるから、監査請求の対象となるべき右損害賠償請求権の行使を怠る事実も存在しないというほかはない。それにもかかわらず、当該怠る事実を対象とする監査請求につき、転売行為の日を基準として地方自治法242条2項の規定を適用し、同項本文の期間が進行するものと解することはできない。前示第二小法廷判決(注:昭和62年2月20日・民集41.1.122)の判旨は、右のような場合にまでそのまま妥当するものではなく、財務会計上の行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実とする住民監査請求において、右請求権が右財務会計上の行為のされた時点においてはいまだ発生しておらず、又はこれを行使することができない場合には、右実体法上の請求権が発生し、これを行使することができることになった日を基準として同項の規定を適用すべきものと解するのが相当である。 本件においては、上告人らの主張するように被上告人が本件転売行為をし、これが違法であったとすると、国鉄清算事業団が本件売買契約の解除をしたことにより、契約条項の上では○市の同事業団に対する売買代金の1割相当の違約金債務が発生したことになるが、前記の事実関係によれば、地方公共団体である同市が同じく公的団体である同事業団の請求に対して右債務の存在を否定する対応をし、同事業団の提訴に対しても転売禁止の特約の有効性自体を否定する答弁をして応訴し、その後2年8箇月余にわたってこの争いが続行した結果、最終的に裁判上の和解による解決をみたのであって、その間、同市は、右債務負担を否定し続けていたというのであるから、他方で被上告人に対して右債務負担によって損害を被ったと主張して損害賠償請求をすることはできない立場にあったものというべきである。そうだとするなら、右主張の下においては、前記和解により右違約金の一部に相当するとみられる和解金の支払が約され、○市の債務負担が確定した時点において、初めて同市の被上告人に対する損害賠償請求権を行使することができることとなったというのが相当であるから、右和解の日を基準として地方自治法242条2項の規定を適用すべきである。 以上によれば、右和解が成立した平成…日から1年が経過する以前にされた本件監査請求は、同項の期間を遵守したものとして適法であり… |