平成10年12月18日 民集52.9.2039

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【項目】

①適法な住民監査請求が不適法であるとして却下された場合における、同一の監査対象についての再度の住民監査請求の許否

②適法な住民監査請求が不適法であるとして却下された場合における住民訴訟の出訴期間

【要旨】

 ①監査委員が適法な住民監査請求を不適法であるとして却下した場合、当該請求をした住民は、直ちに住民訴訟を提起することができるのみならず、同一の財務会計上の行為又は怠る事実を対象として再度の住民監査請求をすることも許される

②監査委員が適法な住民監査請求を不適法であるとして却下した場合、住民訴訟の出訴期間は、地方自治法242条の2第2項1号に準じ、却下の通知があった日から30日以内と解するのが相当である

【事実関係】

① X年4月1日(以下全てX年)に開校した市立学校について、本件原告は6月28日、市監査委員に対し、住民監査請求(第1回監査請求)をした。監査請求書には、表題として「○市立○中学校の分離校は建設する必要があったのかの監査請求書」、監査を請求する理由として「○中の分離校を31億円の公金を投じて建設する必要はなかったと考えられる。故に分離校建設は正当であったのかの監査を請求する」と記載されていた。市監査委員は、7月13日、第1回監査請求を却下する旨の通知をした。却下の理由は、第1回監査請求が一般的な行政運営を対象としており、それゆえ不適法であるというものであった

② 8月12日、本件原告は再度の住民監査請求(第2回監査請求)をした。監査請求書には、表題として「○市立○中学校の分離校は建設する合理的理由があったのかの監査請求書」、監査を請求する理由として「35学級、1400人迄対応出来る規模の用地面積があるのであるから、○中の分離校を31億円の公金を投じて建設する必要はなかったと考える。故に分離校建設は正当であったのかの監査を請求する」と記載されていた。市監査委員は、9月5日、第2回監査請求を却下する旨の通知をした。却下の理由は、第1回監査請求における請求人及び対象となる監査請求の内容が同一であるため、一事不再理の原則に従い却下するというものであった

③ 本件原告は、10月3日、本件訴えを提起した

【関連判例】

(再度の監査請求)

昭和62年02月20日 民集41.1.122 (同一人の同一内容の再度の監査請求)

平成22年07月16日 民集64.5.1450 (監査請求を経ない者の別訴住民訴訟への参加)

【判決文の抜粋】

1 監査委員が適法な住民監査請求を不適法であるとして却下した場合、当該請求をした住民は、適法な住民監査請求を経たものとして直ちに住民訴訟を提起することができるのみならず、当該請求の対象とされた財務会計上の行為又は怠る事実と同一の財務会計上の行為又は怠る事実を対象として再度の住民監査請求をすることも許される【要旨①】ものと解すべきである。住民監査請求の制度は、住民訴訟の前置手続として、まず監査委員に住民の請求に係る財務会計上の行為又は怠る事実について監査の機会を与え、当該行為又は怠る事実の違法、不当を当該普通地方公共団体の自治的、内部的処理によって予防、是正させることを目的とするものであると解される。そして、監査委員が適法な住民監査請求により監査の機会を与えられたにもかかわらずこれを却下し監査を行わなかったため、当該行為又は怠る事実の違法、不当を当該普通地方公共団体の自治的、内部的処理によって予防、是正する機会を失した場合には、当該請求をした住民に再度の住民監査請求を認めることにより、監査委員に重ねて監査の機会を与えるのが、右に述べた住民監査請求の制度の目的に適合すると考えられる。また、監査委員が住民監査請求を不適法であるとして却下した場合、当該請求をした住民が、却下の理由に応じて必要な補正を加えるなどして、当該請求に係る財務会計上の行為又は怠る事実と同一の行為又は怠る事実を対象とする再度の住民監査請求に及ぶことは、請求を却下された者として当然の所為ということができる。そうであるとすれば、当初の住民監査請求が適法なものであるため直ちに住民訴訟を提起することができるとしても、当該請求をした住民が住民訴訟を提起せずに再度の住民監査請求に及んだ場合に、右請求が当初の請求とその対象を同じくすることを理由に不適法であるとするのは、出訴期間等の点で当該住民から住民訴訟を提起する機会を不当に奪うことにもなって、著しく妥当性を欠くというべきである。

2 監査委員が適法な住民監査請求を不適法であるとして却下した場合、当該請求をした住民が提起する住民訴訟の出訴期間は、法242条の2第2項1号に準じ、却下の通知があった日から30日以内と解するのが相当【要旨②】である。同項1号ないし4号の規定は、住民監査請求の対象となる財務会計上の行為又は怠る事実について、いつまでも争い得る状態にしておくことは、法的安定性の見地からみて好ましくないため、これを早期に確定させようとの趣旨から、住民監査請求をした住民において、当該請求に係る行為又は怠る事実について住民訴訟を提起するか否かの判断を、その提起が法的に可能となった時点から30日以内の期間にさせる趣旨のものである。そして、監査委員が適法な住民監査請求を不適法であると認めてその旨を書面により請求人に通知した場合には、当該請求に対する監査委員の監査は行われていないものの、当該請求に対する監査委員の判断結果が確定的に示されている点において、監査委員が請求に理由がないと認めてその旨を書面により請求人に通知した場合と異なるところがない。そうすると、当該請求をした住民は、却下の通知を受けた時点において、当該請求に係る行為又は怠る事実について住民訴訟を提起することが法的に可能な状態になったものとして、同項1号にいう監査委員の監査の結果に不服がある場合に準じて、却下の通知を受けた日から30日以内に住民訴訟を提起しなければならないと解するのが、住民訴訟の出訴期間を規定した同項の趣旨に沿うものというべきである。

3 これを本件についてみると、原審の判示したとおり、市監査委員が上告人らの第1回監査請求を不適法であるとして却下したのであるから、上告人らは、法242条2項その他の適法要件を満たす限りにおいて、第1回監査請求と同一の財務会計上の行為を対象とする再度の住民監査請求をすることも許されると解される。そして、上告人らの第2回監査請求が右にいう再度の住民監査請求として適法なものであれば、本件訴えに係る出訴期間については、上告人らが第2回監査請求に対する却下の通知を受けた日から30日以内と解すべきところ、前記事実関係によれば、上告人らは、右却下の通知を受けた日から30日以内に本件訴えを提起していることが明らかである。そうすると、右と異なり、上告人らの第2回監査請求が第1回監査請求と同一の財務会計上の行為を対象とする再度の住民監査請求であることを専らその理由として第2回監査請求を不適法であるとした上、本件訴えに係る出訴期間について、第1回監査請求をした日から60日を経過した日から30日以内であるとし、本件訴えが出訴期間の経過後に提起された不適法なものであるとした原審の前記判断は、法令の解釈適用を誤った違法があり…