平成18年12月01日 民集60.10.3847

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【項目】

①資金前渡を受けた職員のする普通地方公共団体に債務を負担させる行為及び債権者に対する支払と住民訴訟の対象となる「公金の支出」

②資金前渡を受けた職員と地方自治法242条の2第1項4号にいう「当該職員」

③資金前渡を受けた職員が普通地方公共団体に債務を負担させる行為をした場合における当該普通地方公共団体の長と地方自治法242条の2第1項4号にいう「当該職員」

④資金前渡を受けた職員が普通地方公共団体に債務を負担させる行為をした場合における当該普通地方公共団体の長の損害賠償責任

【要旨】

①資金前渡を受けた職員のする普通地方公共団体に債務を負担させる行為及び債権者に対する支払は,住民訴訟の対象となる「公金の支出」に当たる

②資金前渡を受けた職員は,その権限に基づいてした普通地方公共団体に債務を負担させる行為及び債権者に対する支払の適否が問題とされている住民訴訟において,地方自治法242条の2第1項4号にいう「当該職員」に該当する

③普通地方公共団体の長は,資金前渡をした場合であっても,資金前渡を受けた職員のした当該普通地方公共団体に債務を負担させる行為の適否が問題とされている住民訴訟において,地方自治法242条の2第1項4号にいう「当該職員」に該当する

④資金前渡を受けた職員が普通地方公共団体に債務を負担させる行為をした場合においては,当該普通地方公共団体の長は,同職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失により同職員が上記違法行為をすることを阻止しなかったときに限り,当該普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負う

【事実関係】

市長交際費に関する住民訴訟。市長交際費は秘書室長に資金前渡され,市長の指示のもと,資金前渡職員が支払を行っていた

【関連判例】

(財務会計行為等該当性)

昭和51年03月30日 集民117.337 (土地区画整理事業(換地処分)の財務会計行為該当性)

平成02年04月12日 民集44.3.431 (道路建設工事決定)

平成02年10月25日 集民161.51 (財産該当性)

平成03年11月28日 集民163.611 (土地開発公社の用地買収)

平成10年11月12日 民集52.8.1705 (土地区画整理事業での保留地売却)

(当該職員)

昭和62年04月10日 民集41.3.239 (議員の当該職員該当性)

平成03年11月28日 集民163.611 (土地開発公社理事の違法な行為)

平成03年12月20日 民集45.9.1455 (専決事案での原権限者の当該職員該当性)

平成03年12月20日 民集45.9.1503 (専決職員の当該職員該当性)

平成05年02月16日 民集47.3.1687 (権限委任の場合の首長の当該職員該当性)

平成11年04月22日 民集53.4.759 (当該職員外の者を被告とした場合の被告の変更)

【判決文の抜粋】

4 本件は,資金前渡の方法によってされた交際費の支出の適否が問題とされている住民訴訟である。前記事実関係等によれば,市は,資金前渡に係る経費に関し,支出負担行為として整理する時期を資金前渡をする時とすることなどを規則において定め,支出命令及び支出(狭義の支出)も上記の時にすることとしているというのである。そこで,論旨につき検討する前提として,第1審被告Y2(注:秘書室長)がした本件各債務負担行為及び本件各支払が住民訴訟の対象となる「公金の支出」に当たるかどうかなどの点についてまずみることとする。

(1) 資金前渡職員に対する資金の交付は,債権者に対する支払の便宜のためにされるにすぎず,交付された資金が公金としての性質を失うものではない。法も,243条の2において,資金前渡を受けた職員がその保管に係る現金を亡失したときは損害を賠償しなければならないことを規定している。そして,地方自治法施行令161条の規定等に照らせば,資金前渡職員は,普通地方公共団体の規則等において別段の定めがされていない限り,各個の経費の目的に従い,交付された金額の範囲内で,契約を締結するなどして普通地方公共団体に債務を負担させる権限を有し,また,当該普通地方公共団体がそのようにして負担した債務又は既に負担していた債務を履行するため債権者に対する支払を行う権限を有すると解される。

 これらのことを考えると,資金前渡職員のする普通地方公共団体に債務を負担させる行為(以下「個別債務負担行為」という。)及び支払は,前記の支出負担行為,支出命令及び支出(狭義の支出)と並んで,法242条1項にいう「公金の支出」に当たり,住民訴訟の対象となる【要旨①】ものと解するのが相当である。

(2) 旧法242条の2第1項4号にいう「当該職員」とは,当該訴訟においてその適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして上記権限を有するに至った者を広く意味するものである(最高裁昭和55年(行ツ)第157号同62年4月10日第二小法廷判決・民集41巻3号239頁参照)。資金前渡職員が交付を受けた金額の範囲内で個別債務負担行為をし,また,債務を履行するため債権者に対する支払をすることができるのは,特定の経費につき資金前渡を受けて支出負担行為及び支出(狭義の支出)に係る権限を普通地方公共団体の長から委任されたことによるところであるから,資金前渡職員は,個別債務負担行為及び支払の適否が問題とされている住民訴訟において,旧法242条の2第1項4号にいう「当該職員」に該当するものと解すべきである。また,普通地方公共団体の長は,支出負担行為をする権限を法令上本来的に有するとされている以上,資金前渡をした場合であっても,資金前渡職員のする個別債務負担行為の適否が問題とされている住民訴訟において,同号所定の「当該職員」に該当するものと解すべき【要旨②③】である(最高裁昭和62年(行ツ)第148号平成5年2月16日第三小法廷判決・民集47巻3号1687頁参照)。

(3) そして,資金前渡職員が個別債務負担行為をした場合においては,普通地方公共団体の長は,当該資金前渡職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失により同資金前渡職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り,自らも財務会計上の違法行為を行ったものとして,普通地方公共団体に対し,上記違法行為により当該普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負う【要旨④】ものと解するのが相当である(前掲平成5年2月16日第三小法廷判決,最高裁平成4年(行ツ)第156号同9年4月2日大法廷判決・民集51巻4号1673頁参照)。

(4) 以上を本件についてみると,本件各支払及びその前提としてされた本件各債務負担行為は,いずれも,第1審被告Y2が市長等交際費の資金前渡職員としてした債権者に対する支払及びその前提となる個別債務負担行為であるというのであるから,法242条1項にいう「公金の支出」に当たり,住民訴訟の対象となるものであり,これらをする権限を有する資金前渡職員である第1審被告Y2は「当該職員」に当たることとなる。そして,第1審被告Y1(注:市長)も,本件各債務負担行為につき「当該職員」に当たり,第1審被告Y2が本件各債務負担行為につき財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失によりこれを阻止しなかったときに限り,市に対し,上記違法行為により市が被った損害につき賠償責任を負うこととなる。