平成11年04月22日 民集53.4.759

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【項目】

①4号訴訟での「当該職員」に対する訴えの原告が「当該職員」に該当しない者を誤って被告としたときにおける行政事件訴訟法15条の準用の有無

②4号訴訟での「当該職員」に対する訴えの原告が「当該職員」には該当するものの現実に専決するなどの財務会計上の行為をしたと認められない者を誤って被告としたときにおける行政事件訴訟法15条の準用の有無

③4号訴訟での「当該職員」に対する訴えにおいて行政事件訴訟法15条の準用により被告の変更がされた場合の従前の被告に対する訴えの提起と新たな被告に対する請求権の時効の中断

【平成14年法改正前の旧規定下での4号訴訟】

【要旨】

①地方自治法242条の2第1項4号所定の「当該職員」に対する損害賠償請求又は不当利得返還請求に係る訴えの原告が「当該職員」に該当しない者を誤って被告としたときは、裁判所は行政事件訴訟法15条を準用して、被告を変更することを許すことができる

②訓令等の事務処理上の明確な定めにより、財務会計上の行為に関し、額の多募に応じるなどして、専決することを任され、権限行使についての意思決定を行う者がそれぞれ規定されている場合において、地方自治法242条の2第1項4号所定の「当該職員」に対する損害賠償請求又は不当利得返還請求に係る訴えの原告が、当該財務会計上の行為につき専決することを任されている者として「当該職員」には該当するものの、現実に専決するなどの財務会計上の行為をしたと認められない者を誤って被告としたときは、裁判所は、行政事件訴訟法15条を準用して、被告を変更することを許すことができる

③地方自治法242条の2第1項4号所定の「当該職員」に対する損害賠償請求又は不当利得返還請求に係る訴えにおいて、原告が被告とすべき「当該職員」を誤ったとしてした被告変更の申立てに対して行政事件訴訟法15条の準用による裁判所の許可決定がされた場合、従前の被告に対する訴えの提起は、新たな被告に対する損害賠償請求権又は不当利得返還請求権についての裁判上の請求又はこれに準ずる事項中断事由には該当しない

【事実関係】

公金支出が違法とする4号訴訟であり、本件訴えは、同号所定の「当該職員」に対する損害賠償請求として提起されたもの。なお当該団体の専決規程(訓令)では、支出金額の多寡に応じ専決権者が定められており、本件訴え提起時に被告とした者らのうち、上告人A2は、右各公金の支出に関し1件10万円以下の支出決定について専決を任されており、Dはおよそ専決を任されていなかったが、原告は、X年1月26日、行政事件訴訟法43条3項、40条2項、15条1項に基づき、その金額が10万円を超える…の各公金の支出に係る訴えについて、被告を上告人A2から右規程によりその専決を任されていた上告人A5に、…の各公金の支出に係る訴えについて、被告をDから右規程によりその専決を任されていた上告人A6に、…の公金の支出に係る訴えについて、被告をDから右規程によりその専決を任されていた上告人A4に、それぞれ変更する旨の申立てをし、第一審裁判所は、これを許可する旨の決定をした

【関連判例】

(当該職員)

昭和62年04月10日 民集41.3.239 (議員の当該職員該当性)

平成03年11月28日 集民163.611 (土地開発公社理事の違法な行為)

平成03年12月20日 民集45.9.1455 (専決事案での原権限者の当該職員該当性)

平成03年12月20日 民集45.9.1503 (専決職員の当該職員該当性)

平成05年02月16日 民集47.3.1687 (権限委任の場合の首長の当該職員該当性)

平成18年12月01日 民集60.10.3847 (資金前渡職員及び首長の当該職員該当性)

【判決文の抜粋】

第一 …

 地方自治法242条の2第1項4号にいう「当該職員」には、普通地方公共団体の内部において、訓令等の事務処理上の明確な定めにより、当該訴訟においてその適否が問題とされている財務会計上の行為につき法令上権限を有する者からあらかじめ専決することを任され、右権限行使についての意思決定を行うとされている者も含まれるが、およそ右のような権限を有する地位ないし職にあると認められない者を被告として提起された同号所定の「当該職員」に対する損害賠償請求又は不当利得返還請求に係る訴えは、法により特に出訴が認められた住民訴訟の類型に該当しない訴えとして、不適法である(最高裁昭和55年(行ツ)第157号同62年4月10日第二小法廷判決・民集41巻3号239頁最高裁平成2年(行ツ)第138号同3年12月20日第二小法廷判決・民集45巻9号1503頁)。また、訓令等の事務処理上の明確な定めにより、当該財務会計上の行為に関し、額の多寡に応じるなどして、専決することを任され、右権限行使についての意思決定を行う者がそれぞれ規定されている場合において、当該財務会計上の行為につき、右のような権限を有する地位ないし職にある者として「当該職員」には該当するものの、現実に専決するなどの財務会計上の行為をしたと認められない者に対する損害賠償請求又は不当利得返還請求は、理由がなく棄却されるべきである(前掲平成3年12月20日第二小法廷判決参照)。しかしながら、財務会計上の行為を行う権限の所在及びその委任関係等に関する法令、条例、規則、訓令等の定めや普通地方公共団体内部の行政組織が複雑であるため、地方自治法242条の2第1項4号所定の「当該職員」に対する訴えを提起しようとする住民において、その適否が問題とされている財務会計上の行為につき、だれが右のような権限を有する地位ないし職にある者として「当該職員」に該当するのか、また、だれが現実に専決するなどの財務会計上の行為をしたのかの判定が必ずしも容易でない場合も多いと考えられる。他方、当該訴えは同条2項1号ないし4号に掲げる期間内に提起しなければならないとされているため、当該住民がおよそ右のような権限を有する地位ないし職にあると認められない者又は現実に専決するなどの財務会計上の行為をしたと認められない者を被告として訴えを提起した場合には、改めて正当な被告に対して訴えを提起しようとしても、出訴期間の経過により許されないことがある。以上の事情は、取消訴訟において原告が被告とすべき者を誤った場合と異なるところはなく、行政事件訴訟法15条は、このような場合に、被告の変更を許すことにより原告の救済を図ることとしているのであるから、前記のように被告とすべき「当該職員」を誤った場合についても、地方自治法242条の2第6項、行政事件訴訟法43条3項、40条2項により同法15条の規定を準用して被告の変更を許すことにより、原告の救済を図るのが相当というべきである。

 そうすると、地方自治法242条の2第1項4号所定の「当該職員」に対する損害賠償請求又は不当利得返還請求に係る訴えにおいて、原告が故意又は重大な過失によらないで「当該職員」とすべき者を誤ったときは、裁判所は、原告の申立てにより、行政事件訴訟法15条を準用して、決定をもって、被告を変更することを許すことができる【要旨①】と解するのが相当である。また、訓令等の事務処理上の明確な定めにより、その適否が問題とされている財務会計上の行為に関し、額の多寡に応じるなどして、専決することを任され、右権限行使についての意思決定を行う者がそれぞれ規定されている場合において、当該財務会計上の行為につき、法令上権限を有する者からあらかじめ専決することを任され、右権限行使についての意思決定を行うとされている者として「当該職員」には該当するものの、現実に専決するなどの財務会計上の行為をしたと認められない者を誤って被告としたときにも、同条を準用して、被告を変更することを許すことができる【要旨②】と解すべきである。

三 以上判示したところによれば、被上告人らは、前記各公金の支出に係る訴えについて、行政事件訴訟法15条の準用により、被告とすべき「当該職員」を誤ったとして被告変更の申立てをすることができるから、第一審裁判所がした本件被告変更許可決定により、前記各公金の支出に係る上告人A2及びDに対する本件訴えは、取り下げられたものとみなされ(同条4項)、上告人A5、同A6及び同A4がそれぞれ被告の地位を有するに至ったものというべきである。

第三 …

一 地方自治法242条の2第1項4号所定の「当該職員」に対する損害賠償請求又は不当利得返還請求に係る訴えにおいて、原告が被告とすべき「当該職員」を誤ったとしてした被告変更の申立てに対して行政事件訴訟法15条の準用による裁判所の許可決定がされた場合、従前の被告に対する訴えの提起は、新たな被告に対する損害賠償請求権又は不当利得返還請求権についての裁判上の請求又はこれに準ずる時効中断事由には該当しない【要旨③】と解するのが相当である。地方自治法242条の2第1項4号所定の「当該職員」に対する損害賠償請求又は不当利得返還請求に係る訴えは、普通地方公共団体が「当該職員」に対して有する実体法上の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を住民が代位行使する形式によるものであり、右各請求権は民法又は地方自治法243条の2第1項に基づくものである。最初の訴えの提起により従前の被告に対する右の実体法上の請求権について裁判上の請求としての時効中断の効力が生ずることはいうまでもないが、時効中断の効力は中断行為の当事者及びその承継人に対してのみ及ぶものであり(民法148条)、行政事件訴訟法15条3項は、特に出訴期間の遵守に限って新たな被告に対する訴えを最初に訴えを提起した時に提起したものとみなす旨を規定したものであって、民法148条の前記の原則を修正した規定であると解することはできず、他に右の原則を修正したと解し得る実体法上の規定を見いだすこともできない。また、従前の被告に対する右の実体法上の請求権と新たな被告に対する右の実体法上の請求権について連帯債務に関する民法434条の規定を適用することもできないものというべきである。

二 これを本件についてみると、本件被告変更許可決定による新たな被告である上告人A4、同A5及び同A6に対する実体法上の請求権は、地方自治法243条の2第1項に基づく損害賠償請求権であるから、同法236条1項により、権利を行使し得る時より5年間これを行わないときは、時効により消滅するところ、原審の適法に確定したところによれば、右上告人らに係る前記の各公金の支出は、いずれも、X-8年12月17日までに行われたものであり、他方、被上告人らが本件被告変更許可決定に係る被告変更の申立てをしたのはX年1月26日であるというのであるから、右上告人らに対する右各損害賠償請求権は、右被告変更の申立てがされた時点において、既に時効により消滅していたことが明らかである。