平成05年02月16日 民集47.3.1687

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【項目】

①自己の権限に属する財務会計上の行為を吏員に委任した普通地方公共団体の長と地方自治法242条の2第1項4号にいう「当該職員」

②自己の権限に属する財務会計上の行為を吏員に委任した普通地方公共団体の長の損害賠償責任の範囲

【要旨】

①普通地方公共団体の長は、その権限に属する財務会計上の行為をあらかじめ特定の吏員に委任している場合であっても、右委任により処理された財務会計上の行為の適否が問題とされている代位請求住民訴訟において、地方自治法242条の2第1項4号にいう「当該職員」に該当する

②普通地方公共団体の長の権限に属する財務会計上の行為を、委任を受けた吏員が処理した場合は、長は、右吏員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失により右吏員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り、普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負う

【事実関係】

戦没者慰霊のための忠魂碑前で遺族会が神式の慰霊祭を挙行し、市長、教育長がこれに出席したところ、市長が本件各慰霊祭及びその準備のため本件市財産(市役所庁舎会議室、封筒、マイクロバス、乗用車及び事務用紙)を使用又は消費させるなどし、その管理を怠ったことが違法であることを理由とする、市長を地方自治法242条の2第1項4号所定の「当該職員」として被告とする損害賠償請求訴訟が提起された。市財産の管理権限は、いずれも市長から所管の各課長に委任されている

【関連判例】

(当該職員)

昭和62年04月10日 民集41.3.239 (議員の当該職員該当性)

平成03年11月28日 集民163.611 (土地開発公社理事の違法な行為)

平成03年12月20日 民集45.9.1455 (専決事案での原権限者の当該職員該当性)

平成03年12月20日 民集45.9.1503 (専決職員の当該職員該当性)

平成11年04月22日 民集53.4.759 (当該職員外の者を被告とした場合の被告の変更)

平成18年12月01日 民集60.10.3847 (資金前渡職員及び首長の当該職員該当性)

【判決文の抜粋】

 地方自治法242条の2第1項4号にいう「当該職員」とは、当該訴訟においてその適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者を広く意味するものである(前掲第二小法廷判決(注:昭和62年4月10日・民集41巻3号239頁)参照)。普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体を代表する者であり(同法147条)、当該普通地方公共団体の条例、予算その他の議会の議決に基づく事務その他公共団体の事務を自らの判断と責任において誠実に管理し及び執行する義務を負い(同法138条の2)、予算の執行、地方税の賦課徴収、分担金、使用料、加入金又は手数料の徴収、財産の取得、管理及び処分等の広範な財務会計上の行為を行う権限を有する者であって(同法149条)、その職責及び権限の内容にかんがみると、長は、その権限に属する一定の範囲の財務会計上の行為をあらかじめ特定の吏員に委任することとしている場合であっても、右財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものとされている以上、右財務会計上の行為の適否が問題とされている当該代位請求住民訴訟において、同法242条の2第1項4号にいう「当該職員」に該当する【要旨①】ものと解すべきである。そして、右委任を受けた吏員が委任に係る当該財務会計上の行為を処理した場合においては、長は、右吏員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失により右吏員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り、自らも財務会計上の違法行為を行ったものとして、普通地方公共団体に対し、右違法行為により当該普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負う【要旨②】ものと解するのが相当である。

 してみると、本件市財産の管理権限が、前記のとおり、いずれも所管の各課長に委任されているとしても、○市長である被上告人○は、右管理権限を法令上本来的に有するとされている者であるから、同法242条の2第1項4号にいう「当該職員」に該当するものと解すべきであり…