昭和62年04月10日 民集41.3.239

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【項目】

①当該職員の範囲

②住民訴訟における議長の被告適格

【要旨】

①地方自治法242条の2第1項4号にいう「当該職員」とは、当該訴訟において適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するとされている者及びその者から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者をいう

②議長交際費につき、議長を被告として提起された代位請求住民訴訟は、地方自治法242条の2第1項4号所定の「当該職員に対する損害賠償の請求」に該当しない訴えとして、不適法である

【事実関係】

議長交際費の不適切な使用があるとして、議長等に対し、4号訴訟を提起したもの

【関連判例】

(当該職員)

平成03年11月28日 集民163.611 (土地開発公社理事の違法な行為)

平成03年12月20日 民集45.9.1455 (専決事案での原権限者の当該職員該当性)

平成03年12月20日 民集45.9.1503 (専決職員の当該職員該当性)

平成05年02月16日 民集47.3.1687 (権限委任の場合の首長の当該職員該当性)

平成11年04月22日 民集53.4.759 (当該職員外の者を被告とした場合の被告の変更)

平成18年12月01日 民集60.10.3847 (資金前渡職員及び首長の当該職員該当性)

【判決文の抜粋】

 本件訴えは、(地方自治)法242条の2第1項4号所定の代位請求住民訴訟の一類型である「当該職員」に対する損害賠償の請求として提起されたものと解されるところ、住民訴訟が自己の法律上の利益にかかわらない当該普通地方公共団体の住民という資格で特に法によって出訴することが認められている民衆訴訟の一種であることにかんがみると、当該訴訟において被告とされている者が当該訴訟において被告とすべき右「当該職員」たる地位ないし職にある者に該当しないと解されるとすれば、かかる訴えは、法により特に出訴が認められた住民訴訟の類型に該当しない訴えとして、不適法といわざるを得ないこととなる。そして、右「当該職員」とは、住民訴訟制度が法242条1項所定の違法な財務会計上の行為又は怠る事実を予防又は是正しもって地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とするものと解されることからすると、当該訴訟においてその適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者を広く意味し、その反面およそ右のような権限を有する地位ないし職にあると認められない者はこれに該当しない【要旨①】と解するのが相当である。

 そこで、本件についてこの点をみるのに、法の規定によると、普通地方公共団体の議会の議長…は、議会の事務の統理権(法104条)、議会の庶務に関する事務局長等の指揮監督権(法138条7項)を有するものの、予算の執行権は普通地方公共団体の長…に専属し(法149条2号)、また、現金の出納保管等の会計事務は出納長又は収入役の権限とされているから(法170条1項、2項)、一般に議会の議長の統理する事務には予算の執行に関する事務及び現金の出納保管等の会計事務は含まれておらず、議会の議長はかかる事務を行う権限を有しないものというほかない。もっとも、長はその権限に属する事務の一部を当該普通地方公共団体の吏員に委任することができ(法153条1項)、議会局の事務局長その他の職員を長の補助機関たる事務吏員に併任した上その者に対し支出命令等予算執行に関する事務の権限を委任することは可能であるが、議会の議長は、その地位にかんがみると、長においてかかる権限の委任を行い得る相手方としては予定されていないというべきである。現に本件においても、…関係法令上議長に対し(首長)の有する予算執行に関する事務の権限が委任されていたとみるべき根拠は存しない。また、本件の交際費等の支出手続について原審の確定するところを略述すると、() 交際費については、議会局管理部庶務課長が毎月初めに当該月の必要額について支出決定原議を作成し、同課長名義の資金前渡請求書に同局管理部経理課長の支出命令(○規則…により(首長)の権限が委任されているものと解される。経理課長の支出命令につき以下同じ。)を得た上、自ら資金前渡受者として現金を受領保管し、具体的な必要を生じた都度支出伺に議長等の決裁を受けて必要額を使用する者に交付する、() 報償費については、慶弔、賞賜等の必要を生じた都度支出伺につき議長等の決裁を受けた上、庶務課長が支出決定原議を作成し、同課長名義の資金前渡請求書に経理課長の支出命令を得、自ら資金前渡受者として現金を受領し使用する者に交付する、() 特別旅費については、庶務課人事係長が支出決定原議を作成して議長等の決裁を受け、同係長名義の資金前渡請求書に経理課長の支出命令を得た上、自ら資金前渡受者として現金を受領し出張者に交付する、() 委託料については、経理課長が支出決定原議を作成し議会局長の決裁を得た上、同課長名義の資金前渡請求書により自ら資金前渡受者として現金を受領し使用する者に交付する、というのであり、これらの支出手続に徴しても、議長が本件交際費等の支出に関し支出命令等何らかの財務会計上の行為を行う権限を有していたと解すべき根拠は見当たらない。ところでこの点について、原判決は、交際費、報償費及び特別旅費について支出伺等に決裁印を押捺したこと並びに委託料について自らこれを受領していることを挙げて議長が「職員」に該当することの論拠としているのであるが、右決裁行為自体は前述の議長の事務統理権ないし議会局職員に対する指揮監督権に基づく行為と観念すべきものであって、本来長に専属するものとされている予算執行に関する事務の権限の行使として行われるべき支出命令等の財務会計上の行為とはその性質を異にするというべきであるから、これを本件交際費等の支出行為そのものととらえあるいはそれと同視すべきものとすることはできないし、また、委託料については、先にみたとおり、議会局管理部経理課長が資金前渡受者となって支出に関する事務を担当すべきものとされているのであるから、(元議長)がこれを受領しその後費消した行為をもって議長において当該支出に関し何らかの財務会計上の行為を行う権限を有していたことの証左とすることはできない。

 …以上によると、議長は、本訴において被上告人らにより違法であると主張されている公金の支出を行う権限を何ら有しないものであり、換言すれば、本件においては議長は法242条の2第1項4号にいう「当該職員」に該当しないというべきであるから、本件訴えは、法により特に出訴が認められた住民訴訟の類型に該当しない訴えとして、不適法【要旨②】というほかない。