平成10年11月12日 民集52.8.1705

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【項目】

土地区画整理事業において取得した保留地を随意契約の方法により売却する行為と住民訴訟の対象となる「財産の処分」及び「契約の締結」

【要旨】

市がその施行する土地区画整理事業において土地区画整理法96条2項、104条11項に基づいて取得した保留地を随意契約の方法により売却する行為は、住民訴訟の対象となる「財産の処分」及び「契約の締結」に当たる

【事実関係】

市が土地区画整理法96条2項、104条11項に基づいて○土地区画整理事業の保留地として取得した土地につき、本件事業の施行規程所定の要件がないのに随意契約の方法で売却した違法及び時価より低廉な価額で売却した違法があるとして、市長を被告に4号訴訟を提起。なお本件事業計画書では、費用100億円弱に対し、国庫負担・補助金10億円弱、負担金等1.5億円弱であり、残りの大部分84億円余を保留地処分金で賄い、残額4.7億円弱を市が負担する計画となっている

【関連判例】

(財務会計行為等該当性)

昭和51年03月30日 集民117.337 (土地区画整理事業(換地処分)の財務会計行為該当性)

平成02年04月12日 民集44.3.431 (道路建設工事決定)

平成02年10月25日 集民161.51 (財産該当性)

平成03年11月28日 集民163.611 (土地開発公社の用地買収)

平成18年12月01日 民集60.10.3847 (資金前渡)

【判決文の抜粋】

 住民訴訟は、地方自治法242条1項所定の財務会計上の違法な行為又は怠る事実を対象とするものでなければならない(同法242条の2第1項本文)ところ、普通地方公共団体の所有に属する不動産は、公有財産として同法における「財産」に当たるものと規定されている(同法237条1項、238条1項1号)から、普通地方公共団体の所有に属する不動産の処分は、当該不動産が当該普通地方公共団体の住民の負担に係る公租公課等によって形成されたものであると否とを問わず、同法242条1項所定の「財産の処分」として住民訴訟の対象になるものと解される。また、右の不動産について売買契約を締結する行為は、同項所定の「契約の締結」に当たり、住民訴訟の対象になるものと解される。

 記録によれば、本件の保留地は、本件事業の換地処分の公告があった日の翌日である昭和…日に○市の所有に属することとなり、同市がこれを同…日に随意契約によって売却したというのであるから、右売却当時同市の「財産」であったものであり、右売却行為は、「財産の処分」及び「契約の締結」に当たり、住民訴訟の対象になるものというべきである。同市は、本件事業の施行者として保留地を取得し、これを処分したのであるが、もとより普通地方公共団体の事務として本件事業を施行していたのであり(地方自治法2条3項12号)、普通地方公共団体としての地位とは別個独立に施行者としての地位を有し、これに基づいて保留地を取得して処分したというものではない。また、市が保留地を定めるのは、土地区画整理事業の施行の費用に充てるためである(法(注:土地区画整理法のこと。以下同じ)96条2項)から、保留地の処分は、その財産的価値に着目してされる行為にほかならず、これについては、一般の財産の処分に関する法令の規定は適用されないものの、右の保留地を定めた目的に適合し、施行規程で定める方法に従わなければならないものと定められており(法108条1項)、施行規程のうち保留地の処分方法を定める規定(法53条2項6号)は、財務会計上の規範ということができる。現に、本件事業の施行規程(○年○市条例第○号)においては、保留地の処分は、施行者があらかじめ予定価格を定め、一般競争入札によるのを本則とし、入札希望者がないとき、落札者が契約を結ばないとき、国又は地方公共団体が公用又は公共の用に供するため必要とするとき、その他特に施行者が必要と認めたときには、随意契約によることができる旨が規定されており(同条例7条)、これは財務会計上の観点から保留地の処分方法を規制するものと解される。本件の保留地の売却がこのような施行規程等財務会計職員の遵守すべき規範に適合するものであったか否かを審査することは、本件事業の在り方そのものを直接審査の対象にするものではないことが明らかである。そして、市の施行する土地区画整理事業に要する費用は施行者である市が負担することとされており(法118条1項)、保留地の処分代金額が低下することは、他に新たに財源を求めない限り、市が一般財源から負担すべき額の増大をもたらすから、特段の事情のない限り市に損害を生じさせるものというべきである。なお、市の施行する土地区画整理事業においては、当該事業の施行後の宅地の価額の総額がその施行前の宅地の価額の総額を超える場合に、その差額に相当する金額を超えない価額の一定の土地を保留地として定めることができるものと規定されている(法96条2項)のは、右差額が施行者である市が費用を負担して施行する土地区画整理事業の結果生み出される価値であることから、これを従前地の所有者らに帰属させずに事業の費用に充てて市の財政負担を軽減することができるものとする趣旨であると解されるのであり、保留地が実質的に減歩を受けた土地所有者らの共有に属するというのは、相当でない。

 以上のとおり、本件の保留地の処分は、「財産の処分」及び「契約の締結」に当たるものとして、住民訴訟の対象になると解することができるから…