平成03年12月20日 民集45.9.1455

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【項目】

①自己の権限に属する財務会計上の行為を補助職員に専決により処理させた者と地方自治法242条の2第1項4号にいう「当該職員」

②自己の権限に属する財務会計上の行為を補助職員に専決により処理させた者の損害賠償責任

【要旨】

①地方公営企業の管理者は、訓令等の事務処理上の明確な定めにより、その権限に属する財務会計上の行為をあらかじめ特定の補助職員に専決させることとしている場合であっても、右専決により処理された財務会計上の行為の適否が問題とされている代位請求住民訴訟において、地方自治法242条の2第1項4号にいう「当該職員」に該当する

②地方公営企業の管理者の権限に属する財務会計上の行為を補助職員が専決により処理した場合は、管理者は、右補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失により右補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り、普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負うものと解するのが相当である

【事実関係】

地方公営企業における違法な支出につき、地方公営企業管理者等を被告とする4号訴訟を提起。対象案件である財務会計行為は、決裁規程上、総務課長専決事項(関連事案:平成03年12月20日 民集45.9.1503

【関連判例】

(当該職員)

昭和62年04月10日 民集41.3.239 (議員の当該職員該当性)

平成03年11月28日 集民163.611 (土地開発公社理事の違法な行為)

平成03年12月20日 民集45.9.1503 (専決職員の当該職員該当性)

平成05年02月16日 民集47.3.1687 (権限委任の場合の首長の当該職員該当性)

平成11年04月22日 民集53.4.759 (当該職員外の者を被告とした場合の被告の変更)

平成18年12月01日 民集60.10.3847 (資金前渡職員及び首長の当該職員該当性)

【判決文の抜粋】

 (地方自治)法242条の2第1項4号にいう「当該職員」とは、当該訴訟においてその適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者を広く意味するものである(最高裁昭和55年(行ツ)第157号同62年4月10日第2小法廷判決民集41巻3号239頁)。地方公営企業の管理者は、地方公営企業の業務の執行に関し、当該地方公共団体を代表する者であり、種々の財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものとされている(地方公営企業法8条、9条)ことからすると、地方公営企業の業務の執行に関しては、普通地方公共団体における長と同視すべき地位にあるものとみるべきである(同法34条参照)。したがって、地方公営企業の管理者は、訓令等の事務処理上の明確な定めにより、その権限に属する一定の範囲の財務会計上の行為をあらかじめ特定の補助職員に専決させることとしている場合であっても、地方公営企業法上、右財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものとされている以上、右財務会計上の行為の適否が問題とされている当該代位請求住民訴訟において、法242条の2第1項4号にいう「当該職員」に該当する【要旨①】ものと解すべきである。そして、右専決を任された補助職員が管理者の権限に属する当該財務会計上の行為を専決により処理した場合は、管理者は、右補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失により右補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り、普通地方公共団体に対し、右補助職員がした財務会計上の違法行為により当該普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負う【要旨②】ものと解するのが相当である。けだし、管理者が右訓令等により法令上その権限に属する財務会計上の行為を特定の補助職員に専決させることとしている場合においては、当該財務会計上の行為を行う法令上の権限が右補助職員に委譲されるものではないが、内部的には、右権限は専ら右補助職員にゆだねられ、右補助職員が常時自らの判断において右行為を行うものとされるのであるから、右補助職員が、専決を任された財務会計上の行為につき違法な専決処理をし、これにより当該普通地方公共団体に損害を与えたときには、右損害は、自らの判断において右行為を行った右補助職員がこれを賠償すべきものであって、管理者は、前記のような右補助職員に対する指揮監督上の帰責事由が認められない限り、右補助職員が専決により行った財務会計上の違法行為につき、損害賠償責任を負うべきいわれはないものというべきだからである。