昭和60年09月12日 集民145.357

 住民監査請求の要件審査実務において重要な最高裁判所判例集 トップ&目次 ⇒ こちら

【項目】

支出の原因行為が違法である場合の支出の違法性(収賄職員を分限免職にして退職手当を支給した事例)

【要旨】

収賄容疑で逮捕された市職員を逮捕後4日目に懲戒免職でなく分限免職にして退職手当を支給した場合において、条例上分限免職処分の場合は当然に退職手当が支給されるため、分限免職処分は退職手当支給の直接の原因となり、分限免職処分が違法であれば退職手当支給行為も違法となるところ、本件においてその後間もなく、右職員が前記物品のほかに金員を収賄したとの事実で起訴され、有罪判決が確定したとしても、本件分限免職処分は違法ということはできず、よって右退職手当の支給をもって違法な公金の支出に当たるということはできない

【事実関係】

前記の通り

【関連判例】

(原因行為と財務会計行為等との関係)

昭和52年07月13日 民集31.4.533 (違法(憲法違反)な原因行為と財務会計行為の違法性)

昭和62年05月19日 民集41.4.687 (違法に締結された随契の効力及び契約履行義務)

平成04年12月15日 民集46.9.2753 (違法な先行行為に基づく財務会計行為の違法性)

平成15年01月17日 民集57.1.1 (違法な旅行命令に対する旅費の支出)

平成20年01月18日 民集62.1.1 (土地先行取得委託契約と取得土地買取契約の関係)

平成21年12月17日 集民232.707 (土地先行取得委託契約と取得土地買取契約の関係)

平成25年03月21日 民集67.3.375 (違法な契約に基づく財務会計行為の違法性)

【判決文の抜粋】

三 ところで、上告人は、本件退職手当の支給の違法理由として、本件分限免職処分の違法を主張する。地方自治法242条の2の住民訴訟の対象が普通地方公共団体の執行機関又は職員の違法な財務会計上の行為又は怠る事実に限られることは、同条の規定に照らして明らかであるが、右の行為が違法となるのは、単にそれ自体が直接法令に違反する場合だけではなく、その原因となる行為が法令に違反し許されない場合の財務会計上の行為もまた、違法となるのである(最高裁昭和46年(行ツ)第69号同52年7月13日大法廷判決・民集31巻4号533頁参照)。そして、本件条例の下においては、分限免職処分がなされれば当然に所定額の退職手当が支給されることとなっており、本件分限免職処分は本件退職手当の支給の直接の原因をなすものというべきであるから、前者が違法であれば後者も当然に違法となるものと解するのが相当である。

四 そこで、本件分限免職処分を発令したことに違法性が存するかどうかを検討するに、前記の…を収賄したDは、地方公務員法28条1項3号にいう「その職に必要な適格性を欠く場合」に該当すると認められるから、本件分限免職処分は、同条項所定の要件を具備しているということができる。

 もっとも、本件条例によれば、懲戒免職処分を受けた職員に対しては退職手当を支給しないこととされているから、Dを懲戒免職処分に付することなく本件分限免職処分を発令したことの適否を判断する必要があるところ、前記の…の収賄事実が地方公務員法29条1項所定の懲戒事由にも該当することは明らかであるが、職員に懲戒事由が存する場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分をするときにいかなる処分を選ぶかは、任命権者の裁量にゆだねられていること(最高裁昭和47年(行ツ)第52号同52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁参照)にかんがみれば、上告人の原審における主張事実を考慮にいれたとしても、右の収賄事実のみが判明していた段階において、Dを懲戒免職処分に付さなかったことが違法であるとまで認めることは困難であるといわざるを得ない。

 また、本件分限免職処分発令後の経過に照らすと、本件分限免職処分が時期尚早の処分ではなかったかとの疑いをいれる余地がないとはいえず、その当不当が問題となり得ようが、本件分限免職処分の発令の段階でその後における事態の進展を予測することには相当の不確実性が伴うばかりでなく、分限処分の発令時期についても任命権者が裁量権を有しており、不適格な職員を早期に公務から排除して公務の適正な運営を回復するという要請にもこたえる必要のあることを考慮すると、発令時期の面から本件分限免職処分が違法であるとすることもできない。

 さらに、本件分限免職処分の発令後において、前記のとおり、Dは…の収賄事実で起訴されたほか、別件の収賄事実で2回にわたり追起訴されるという事態が発生したわけであるが、別件の収賄事実が上告人の原審における主張のようにDに対する本件退職手当の支払前に判明したとしても、本件分限免職処分の発令によりDの○市職員としての身分が既に剥奪されていることに照らせば、別件の収賄事実が判明した段階で本件分限免職処分を取り消さなかったことが違法であるということはできない。

五 以上のとおり、本件分限免職処分を発令したこと及びこれを取り消さなかったことが違法とはいえないから、本件退職手当の支給もこれを違法とすることはできないものといわざるを得ない。