昭和62年05月19日 民集41.4.687

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【項目】

①随意契約の制限に関する法令に違反して締結した契約の効力

②随意契約の制限に関する法令に違反して締結した契約の履行行為と地方自治法242条の2第1項1号に基づく差止請求の可否

【要旨】

①随意契約の制限に関する法令に違反して締結した契約は、地方自治法施行令167条の2第1項の掲げる事由のいずれにも当たらないことが何人の目にも明らかである場合や契約の相手方において随意契約の方法によることが許されないことを知り又は知り得べかりし場合など当該契約を無効としなければ随意契約の締結に制限を加える法令の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められる場合に限り、私法上無効となる

②随意契約の制限に関する法令に違反して締結した契約が無効といえない場合には、地方自治法242条の2第1項1号に基づいて右契約の履行行為の差止めを請求することはできない

【事実関係】

かねて町有地に地元住民が植林のための地上権を設定していたが、その期間が満了することとなった。町は小学校増改築財源確保のため、町有地を地上権者に売却することを考え、林野地の管理を行う林野組合に協議して同意を得るとともに、評価額情報を得た。しかし地上権者は評価額の1/5以上の額での買取を拒絶したため、町が苦慮していたところ、評価額で買い取ると申し出る者があり、町は、随意契約の方法により、評価額での売却契約を締結した。原審は、本売買契約は、地方自治法施行令(昭和49年政令第203号改正前)167条の2第1項3号にいう「競争入札に付することが不利と認められるとき」及び同4号にいう「時価に比して著しく有利な価格で契約を締結することができる見込みのあるとき」のいずれにも該当せず、結局随意契約の方法により契約を締結することができる場合に該当しないから違法であるとして、地方自治法242条の2第1項1号に基づき右契約の履行として行われる所有権移転登記手続の差止めを求める原告の請求を認容した

【関連判例】

(原因行為と財務会計行為等との関係)

昭和52年07月13日 民集31.4.533 (違法(憲法違反)な原因行為と財務会計行為の違法性)

昭和60年09月12日 集民145.357 (原因行為に違法性が認められなかった事例)

平成04年12月15日 民集46.9.2753 (違法な先行行為に基づく財務会計行為の違法性)

平成15年01月17日 民集57.1.1 (違法な旅行命令に対する旅費の支出)

平成20年01月18日 民集62.1.1 (土地先行取得委託契約と取得土地買取契約の関係)

平成21年12月17日 集民232.707 (土地先行取得委託契約と取得土地買取契約の関係)

平成25年03月21日 民集67.3.375 (違法な契約に基づく財務会計行為の違法性)

【判決文の抜粋】

 (地方自治)法234条2項は、普通地方公共団体が締結する契約の方法について「指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる。」と規定し、これを受けて(地方自治法施行)令167条の2第1項は、随意契約によることができる場合を列挙しているのであるから、右列挙された事由のいずれにも該当しないのに随意契約の方法により締結された契約は違法というべきことが明らかである。しかしながら、このように随意契約の制限に関する法令に違反して締結された契約の私法上の効力については別途考察する必要があり、かかる違法な契約であっても私法上当然に無効になるものではなく、随意契約によることができる場合として前記令の規定の掲げる事由のいずれにも当たらないことが何人の目にも明らかである場合や契約の相手方において随意契約の方法による当該契約の締結が許されないことを知り又は知り得べかりし場合のように当該契約の効力を無効としなければ随意契約の締結に制限を加える前記法及び令の規定の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められる場合に限り、私法上無効になるものと解するのが相当【要旨①】である。けだし、前記法及び令の規定は、専ら一般的抽象的な見地に立って普通地方公共団体の締結する契約の適正を図ることを目的として右契約の締結方法について規制を加えるものと解されるから、右法令に違反して契約が締結されたということから直ちにその契約の効力を全面的に否定しなければならないとまでいうことは相当でなく、他方、契約の相手方にとっては、そもそも当該契約の締結が、随意契約によることができる場合として前記令の規定が列挙する事由のいずれに該当するものとして行われるのか必ずしも明らかであるとはいえないし、また、右事由の中にはそれに該当するか否かが必ずしも客観的一義的に明白とはいえないようなものも含まれているところ、普通地方公共団体の契約担当者が右事由に該当すると判断するに至った事情も契約の相手方において常に知り得るものとはいえないのであるから、もし普通地方公共団体の契約担当者の右判断が後に誤りであるとされ当該契約が違法とされた場合にその私法上の効力が当然に無効であると解するならば、契約の相手方において不測の損害を被ることにもなりかねず相当とはいえないからである。そして、当該契約が仮に随意契約の制限に関する法令に違反して締結された点において違法であるとしても、それが私法上当然無効とはいえない場合には、普通地方公共団体は契約の相手方に対して当該契約に基づく債務を履行すべき義務を負うのであるから、右債務の履行として行われる行為自体はこれを違法ということはできず、このような場合に住民が法242条の2第1項1号所定の住民訴訟の手段によって普通地方公共団体の執行機関又は職員に対し右債務の履行として行われる行為の差止めを請求することは、許されない【要旨②】ものというべきである。