平成04年12月15日 民集46.9.2753

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【項目】

4号訴訟における財務会計行為の違法と先行原因行為の違法の関係 【一日校長事件】

【要旨】

地方自治法242条の2第1項4号の規定に基づく代位請求に係る当該職員に対する損害賠償請求訴訟において、右職員に損害賠償責任を問うことができるのは、先行する原因行為に違法事由が存する場合であっても、右原因行為を前提としてされた右職員の行為自体が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限られる

【事実関係】

都道府県教育委員会が、勧奨退職に応じた教職員に対し、退職日に教頭から校長に昇任させ特別昇給を行い、これを受けて当該団体の知事が、昇給後の号給を基礎に算定した退職手当を支給したところ、知事を被告とする損害賠償代位請求訴訟(4号訴訟)を住民が提起

【関連判例】

(原因行為と財務会計行為等との関係)

昭和52年07月13日 民集31.4.533 (違法(憲法違反)な原因行為と財務会計行為の違法性)

昭和60年09月12日 集民145.357 (原因行為に違法性が認められなかった事例)

昭和62年05月19日 民集41.4.687 (違法に締結された随契の効力及び契約履行義務)

平成15年01月17日 民集57.1.1 (違法な旅行命令に対する旅費の支出)

平成20年01月18日 民集62.1.1 (土地先行取得委託契約と取得土地買取契約の関係)

平成21年12月17日 集民232.707 (土地先行取得委託契約と取得土地買取契約の関係)

平成25年03月21日 民集67.3.375 (違法な契約に基づく財務会計行為の違法性)

【判決文の抜粋】

 地方自治法242条の2の規定に基づく住民訴訟は、普通地方公共団体の執行機関又は職員による同法242条1項所定の財務会計上の違法な行為又は怠る事実の予防又は是正を裁判所に請求する権能を住民に与え、もって地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とするものである(最高裁昭和51年(行ツ)第120号同53年3月30日第一小法廷判決・民集32巻2号485頁参照)。そして、同法242条の2第1項4号の規定に基づく代位請求に係る当該職員に対する損害賠償請求訴訟は、このような住民訴訟の一類型として、財務会計上の行為を行う権限を有する当該職員に対し、職務上の義務に違反する財務会計上の行為による当該職員の個人としての損害賠償義務の履行を求めるものにほかならない。したがって、当該職員の財務会計上の行為をとらえて右の規定に基づく損害賠償責任を問うことができるのは、たといこれに先行する原因行為に違法事由が存する場合であっても、右原因行為を前提としてされた当該職員の行為自体が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限られると解するのが相当である。

 ところで、地方教育行政の組織及び運営に関する法律は、教育委員会の設置、学校その他の教育機関の職員の身分取扱いその他地方公共団体における教育行政の組織及び運営の基本を定めるものであるところ(1条)、教育委員会の権限について同法の規定するところをみると、同法23条は、教育委員会が、学校その他の教育機関の設置、管理及び廃止、教育財産の管理、教育委員会及び学校その他の教育機関の職員の任免その他の人事などを含む、地方公共団体が処理する教育に関する事務の主要なものを管理、執行する広範な権限を有するものと定めている。もっとも、同法は、地方公共団体が処理する教育に関する事務のすべてを教育委員会の権限事項とはせず、同法24条において地方公共団体の長の権限に属する事務をも定めているが、その内容を、大学及び私立学校に関する事務(1、2号)を除いては、教育財産の取得及び処分(3号)、教育委員会の所掌に係る事項に関する契約の締結(4号)並びに教育委員会の所掌に係る事項に関する予算の執行(5号)という、いずれも財務会計上の事務のみにとどめている。すなわち、同法は、地方公共団体の区域内における教育行政については、原則として、これを、地方公共団体の長から独立した機関である教育委員会の固有の権限とすることにより、教育の政治的中立と教育行政の安定の確保を図るとともに、他面、教育行政の運営のために必要な、財産の取得、処分、契約の締結その他の財務会計上の事務に限っては、これを地方公共団体の長の権限とすることにより、教育行政の財政的側面を地方公共団体の一般財政の一環として位置付け、地方公共団体の財政全般の総合的運営の中で、教育行政の財政的基盤の確立を期することとしたものと解される。

 右のような教育委員会と地方公共団体の長との権限の配分関係にかんがみると、教育委員会がした学校その他の教育機関の職員の任免その他の人事に関する処分(地方教育行政の組織及び運営に関する法律23条3号)については、地方公共団体の長は、右処分が著しく合理性を欠きそのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵の存する場合でない限り、右処分を尊重しその内容に応じた財務会計上の措置を採るべき義務があり、これを拒むことは許されないものと解するのが相当である。けだし、地方公共団体の長は、関係規定に基づき予算執行の適正を確保すべき責任を地方公共団体に対して負担するものであるが、反面、同法に基づく独立した機関としての教育委員会の有する固有の権限内容にまで介入し得るものではなく、このことから、地方公共団体の長の有する予算の執行機関としての職務権限には、おのずから制約が存するものというべきであるからである。

 そして、以上の事実関係並びに原審の適法に確定した本件昇格処分及び本件退職承認処分の経緯等に関するその余の事実関係の下において、本件昇格処分及び本件退職承認処分が著しく合理性を欠きそのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存するものとは解し得ないから、被上告人としては、○教育委員会が行った本件昇格処分及び本件退職承認処分を前提として、これに伴う所要の財務会計上の措置を採るべき義務があるものというべきであり、したがって、被上告人のした本件支出決定が、その職務上負担する財務会計法規上の義務に違反してされた違法なものということはできない。