平成15年01月17日 民集57.1.1

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【項目】

県議会議長が全国都道府県議会議員軟式野球大会に参加する議員に対して旅行命令を発したことに伴い知事の補助職員がした旅費の支出負担行為及び支出命令が違法ではないとされた事例

【要旨】

県議会議長がX年開催の全国都道府県議会議員軟式野球大会に参加する議員に対し発した旅行命令が違法である場合において,同命令を前提として知事の補助職員がした議員に対する旅費の支出負担行為及び支出命令は,同大会が,昭和24年以降,国民体育大会に協賛する趣旨で毎年その時期に合わせて開催され,同62年にはすべての都道府県議会が参加するようになったという歴史を有し,X年開催の国民体育大会に協賛するとともに,議員相互の親睦とスポーツ精神の高揚を図り,地方自治の発展に寄与する旨の目的の下に開催されたものであり,全国47都道府県議会から議員1400人余りがこれに参加したなど原判示の事実関係の下においては,財務会計法規上の義務に違反する違法なものということはできない

【事実関係】

本住民訴訟は,県議会議員,事務局職員の全国都道府県議会議員軟式野球大会への参加旅費に対する4号訴訟である。

① 全国都道府県議会議員軟式野球大会は,昭和24年以降,国民体育大会に協賛する趣旨で,その開催都道府県において,毎年国体の時期に合わせて開催されてきた。昭和62年の第39回大会にはすべての都道府県議会が参加するようになり,当該県議会も,概ねすべての大会に参加してきた

② 本件野球大会は,第○回国体に協賛して,X年8月23日から25日までの3日間開催され,全国47都道府県議会から議員1400人余りが参加し,県議会からは議員26人が参加し,議会事務局職員9人が実行委員会本部との連絡調整,用具の運搬管理,本件野球大会の記録その他補助業務に従事するために随行した

③ 当時の県議会議長は,本件野球大会の参加を決定し,本件野球大会に参加する議員26人に対して旅行命令を発した。また,上告人A3(議会事務局次長兼総務課長)は,本来の旅行命令権者である上告人A2(議会事務局長:病気で不在)の決裁権を代決して例年の随行職員数を勘案して議会事務局職員9人に対する旅行命令を発し,本件野球大会に参加する議員及びこれに随行する議会事務局職員に支給する旅費合計○円についての支出負担行為及び支出命令をした

④ 原審は,被告A3への請求を,論旨次の通り容認した

 ・ 議員及び議会事務局職員に対する旅行命令はいずれも違法であるから,議員及び議会事務局職員に支給する旅費の支出負担行為及び支出命令も違法である

 ・ A3は,旅費の支出負担行為及び支出命令をするに当たり,それまでの慣行にとらわれることなく,通常要求される程度の注意をもってその必要性を検討すれば,旅費の支出が違法なものであることを認識し得たにもかかわらず,これを怠ったものであり,過失があったことは明らかである

【関連判例】

(原因行為と財務会計行為等との関係)

昭和52年07月13日 民集31.4.533 (違法(憲法違反)な原因行為と財務会計行為の違法性)

昭和60年09月12日 集民145.357 (原因行為に違法性が認められなかった事例)

昭和62年05月19日 民集41.4.687 (違法に締結された随契の効力及び契約履行義務)

平成04年12月15日 民集46.9.2753 (違法な先行行為に基づく財務会計行為の違法性)

平成20年01月18日 民集62.1.1 (土地先行取得委託契約と取得土地買取契約の関係)

平成21年12月17日 集民232.707 (土地先行取得委託契約と取得土地買取契約の関係)

平成25年03月21日 民集67.3.375 (違法な契約に基づく財務会計行為の違法性)

【判決文の抜粋】

(本件旅行命令は違法であるとの判断を示したうえで,旅費の支出負担行為・支出命令を行ったA3に対する請求について,次の通り判示)

上告人A3に対する請求について

ア (地方自治)法242条の2第1項4号に基づき当該職員に損害賠償責任を問うことができるのは,先行する原因行為に違法事由がある場合であっても,上記原因行為を前提にしてされた当該職員の行為自体が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限られる(最高裁昭和61年(行ツ)第133号平成4年12月15日第三小法廷判決・民集46巻9号2753頁参照)。

 ところで,議会がその裁量により議員を派遣することができることは前示のとおりであるところ,予算執行権を有する普通地方公共団体の長は,議会を指揮監督し,議会の自律的行為を是正する権限を有していないから,議会がした議員の派遣に関する決定については,これが著しく合理性を欠きそのために予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵がある場合でない限り,議会の決定を尊重しその内容に応じた財務会計上の措置を執る義務があり,これを拒むことは許されないものと解するのが相当である。

 これを本件についてみると,県議会議長が行った議員に対する旅行命令は違法なものではあるが,前記第1の2(1)及び(2)の事実関係及び原審の適法に確定した旅行命令の経緯等に関するその余の事実関係の下において,県議会議長が行った旅行命令が,著しく合理性を欠き,そのために予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵があるとまでいうことはできないから,知事としては,県議会議長が行った旅行命令を前提として,これに伴う所要の財務会計上の措置を執る義務があるものというべきである。そうすると,決裁規程…に基づき,知事に代わって専決の権限を有する上告人A3が議員に対する旅費についての支出負担行為及び支出命令をしたことが,財務会計法規上の義務に違反してされた違法なものであるということはできない。 

イ また,普通地方公共団体の支出負担行為及び支出命令をする権限を有する職員の損害賠償責任については,故意又は重大な過失により法令の規定に違反して当該行為をした場合に限り責任を負うものとされている(法243条の2第1項,9項)。そうすると,上告人A3が議員及び議会事務局職員に支給する旅費の支出負担行為及び支出命令をしたことにつき県に損害賠償責任を負うというためには,同上告人に故意又は重大な過失があることが確定されなければならない。ところが,原審は,上告人A3に重大な過失があることを確定しないで同上告人の損害賠償責任を肯定したものであるから,法243条の2の解釈適用を誤るものといわざるを得ない。そして,前記アで指摘した事実関係に加え,上告人A3は,専決を任された補助職員として,議会において本件野球大会に議員を派遣することが決定されたことを前提にして上記旅費の支出負担行為及び支出命令をしたものであることなど,原審の適法に確定したその余の事実を総合すれば,同上告人が上記旅費の支出負担行為及び支出命令を行ったことにつき故意又は重大な過失があったということはできない。この趣旨をいう論旨は理由がある。

ウ 以上によれば,上告人A3の損害賠償責任を肯定した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決中上記部分は破棄を免れない。そして,前記説示によれば,被上告人の上告人A3に対する請求は理由がないから,第1審判決中この請求を認容した部分を取り消し,同請求を棄却すべきである。