平成20年01月18日 民集62.1.1

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【項目】

自治体が,土地開発公社との間で締結した土地の先行取得の委託契約に基づく義務の履行として,公社が取得した当該土地を買い取る売買契約を締結することが違法となる場合

【要旨】

 自治体が土地開発公社との間で締結した土地の先行取得の委託契約に基づく義務の履行として,当該公社が取得した当該土地を買い取る売買契約を締結する場合であっても,次の(1)又は(2)のときには,当該売買契約の締結は違法となる

(1) 上記委託契約を締結した自治体の判断に裁量権の範囲の著しい逸脱又は濫用があり,当該委託契約を無効としなければ地方自治法2条14項,地方財政法4条1項の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められるなど,上記委託契約が私法上無効であるとき

(2) 上記委託契約が私法上無効ではないものの,これが違法に締結されたものであって,自治体がその取消権又は解除権を有している場合や,当該委託契約が著しく合理性を欠きそのためその締結に予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存し,かつ,客観的にみて自治体が当該委託契約を解消することができる特殊な事情がある場合であるにもかかわらず,自治体の契約締結権者がこれらの事情を考慮することなく漫然と上記売買契約を締結したとき

【事実関係】

① 本件公社は,市がその周辺の町と共同して公有地の拡大の推進に関する法律に基づき設立した土地開発公社であり,設立団体である市・町の委託を受けて公有地となるべき土地の先行取得を行うこと等をその業務としている

② 市は,X年12月19日,本件公社との間において,本件土地につき代金約3800万円で先行取得を行うことを本件公社に委託する旨の本件委託契約を締結した。本件委託契約において,市は,本件土地を本件公社から上記先行取得の代金の額にその調達のための借入れの利息等の額を加えた金額でX+6年3月31日までに買い取るべきこととされていた

③ 本件公社は,X年12月24日,本件委託契約に基づき,本件土地を上記②と同額(約3800万円)で取得した

④ 市は,X+6年3月18日,本件委託契約に基づき,本件公社との間において,本件土地を代金約4200万円で買い受ける旨の本件売買契約を締結し,同月29日,本件公社に対し,上記代金をすべて支払った。上記代金の額は,前記先行取得の代金の額に借入れの利息の額を加えた金額であった

⑤ 原告は,本件土地は取得する必要のないものであり,取得代金も著しく高額であって違法であると主張する

【関連判例】

(原因行為と財務会計行為等との関係)

昭和52年07月13日 民集31.4.533 (違法(憲法違反)な原因行為と財務会計行為の違法性)

昭和60年09月12日 集民145.357 (原因行為に違法性が認められなかった事例)

昭和62年05月19日 民集41.4.687 (違法に締結された随契の効力及び契約履行義務)

平成04年12月15日 民集46.9.2753 (違法な先行行為に基づく財務会計行為の違法性)

平成15年01月17日 民集57.1.1 (違法な旅行命令に対する旅費の支出)

平成21年12月17日 集民232.707 (土地先行取得委託契約と取得土地買取契約の関係)

平成25年03月21日 民集67.3.375 (違法な契約に基づく財務会計行為の違法性)

【判決文の抜粋】

(1) 地方自治法242条の2第1項4号の規定に基づく代位請求に係る当該職員に対する損害賠償請求訴訟は,財務会計上の行為を行う権限を有する当該職員に対し,職務上の義務に違反する財務会計上の行為による当該職員の個人としての損害賠償義務の履行を求めるものであるから,当該職員の財務会計上の行為がこれに先行する原因行為を前提として行われた場合であっても,当該職員の行為が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときは,上記の規定に基づく損害賠償責任を当該職員に問うことができると解するのが相当である(最高裁昭和61年(行ツ)第133号平成4年12月15日第三小法廷判決・民集46巻9号2753頁参照)。

ア 土地開発公社が普通地方公共団体との間の委託契約に基づいて先行取得を行った土地について,当該普通地方公共団体が当該土地開発公社とその買取りのための売買契約を締結する場合において,当該委託契約が私法上無効であるときには,当該普通地方公共団体の契約締結権者は,無効な委託契約に基づく義務の履行として買取りのための売買契約を締結してはならないという財務会計法規上の義務を負っていると解すべきであり,契約締結権者がその義務に違反して買取りのための売買契約を締結すれば,その締結は違法なものになるというべきである。

 本件において,仮に,本件土地につき代金(約3800万)円で先行取得を行うことを本件公社に委託した市の判断に裁量権の範囲の著しい逸脱又は濫用があり,本件委託契約を無効としなければ地方自治法2条14項,地方財政法4条1項の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められるという場合には,本件委託契約は私法上無効になるのであって,前記3(1)のように,本件土地を取得する必要性及びその取得価格の相当性の有無にかかわらず本件委託契約が私法上無効になるものではないとして本件売買契約の締結が違法となることはないとすることはできない。

イ また,先行取得の委託契約が私法上無効ではないものの,これが違法に締結されたものであって,当該普通地方公共団体がその取消権又は解除権を有しているときや,当該委託契約が著しく合理性を欠きそのためその締結に予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存し,かつ,客観的にみて当該普通地方公共団体が当該委託契約を解消することができる特殊な事情があるときにも,当該普通地方公共団体の契約締結権者は,これらの事情を考慮することなく,漫然と違法な委託契約に基づく義務の履行として買取りのための売買契約を締結してはならないという財務会計法規上の義務を負っていると解すべきであり,契約締結権者がその義務に違反して買取りのための売買契約を締結すれば,その締結は違法なものになるというべきである。

 本件において,仮に本件委託契約が私法上無効ではなかったとしても,上記のような場合には,本件売買契約の締結は財務会計法規上の義務に違反する違法なものになり得るのであって,前記3(1)のように,市が本件委託契約上本件土地を買い取るべき義務を負っていたことから直ちに本件売買契約の締結が違法となることはないとすることもできない。

ウ そうすると,本件委託契約が私法上無効であるかどうか等について審理判断することなく,本件売買契約の締結が本件委託契約に基づく義務の履行であることのみを理由として,市の契約締結権者が本件売買契約を締結してはならないという財務会計法規上の義務を負うことはないとすることはできないものというべきである。