平成17年12月15日 集民218.1151

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【項目】

支出の日から1年を経過して住民監査請求がされたことについて正当な理由があるとはいえないとされた事例

【要旨】

 食糧費各支出の日から1年を経過した後に住民監査請求がされた場合において,住民団体が情報公開条例に基づく公開請求をした結果,上記監査請求の約4か月弱前には,上記各支出を含む1年度分の食糧費支出に関し個別の支出の日,金額,その内訳及び債権者名並びに支出に係る会合の場所,出席人数及び市側の出席者が明らかとなる文書の写しの交付を受けたこと,上記文書の件数は1422件であったが,上記団体はその交付を受けた日から約3か月後には会合出席者1人当たりの金額が6000円を超えるものが230件程度あるなどの分析結果の集約を終えることができたのにかかわらず,その分析結果を新聞紙上に発表して監査請求人を公募し,その約25日後に上記団体の構成員及び上記公募に応じた者が上記監査請求をしたことなど判示の事実関係の下では,同請求の約4か月弱前ころには,市の一般住民においても同様の情報公開請求手続を採るなど相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて上記各支出について監査請求をするに足りる程度にその存在及び内容を知ることができたというべきであり,上記監査請求はその時から相当な期間内にされたということはできず,同請求が上記各支出の日から1年を経過した後にされたことについて地方自治法242条2項ただし書にいう正当な理由があるとはいえない

【事実関係】

① 本件団体は,X年7月3日,市の情報公開条例に基づき,同条例所定の実施機関である市長等に対し,X-1年度における市の局長ないしこれに準ずる職員が出席した会合に係る食糧費(懇談会費)の支出に関する一般支出決議書等,予算管理簿につき,本件情報公開請求をした。実施機関は,同年8月30日,一般支出決議書等については非公開とし,予算管理簿についてはその記載の一部を公開する旨の決定をした

② 実施機関は,X+1年8月1日,本件情報公開請求に係る上記決定を変更し,一般支出決議書等のうち,実施年月日,市側出席者,出席者数,会議の場所,支出金額,支出内訳及び債権者名が記載された部分は公開し,会議,協議等の名称,開催目的のうち協議,懇談会等の相手方出席者を示す表示,相手方出席者並びに債権者の口座及びその印影が記載された部分は非公開とする旨の決定をし,8月19日,非公開部分を塗りつぶした上記文書の写しを本件団体に交付した。本件団体に交付された文書の件数は1422件,その枚数は3258枚であった

③ 本件団体に所属する者は,上記の文書のうち,市の7局1委員会に係る食糧費の支出を分析し,X+1年11月20日ころ,分析結果の一応の集約を終えた。本件団体は,11月22日,上記の食糧費の支出のうち一次会に関するものについてみると,会合に出席した者1人当たりの金額が6000円を超えるものが230件程度あるなどの具体的な分析結果を新聞紙上で発表し,併せて監査請求の請求人を公募した

④ 本件団体の構成員と上記の公募に応じた者から成る原告は,X+1年12月15日,市監査委員に対し,法242条1項に基づき,前記の食糧費の支出のうち220件余が違法,不当であるとして,これによって生じた総額2523万円余の損害を補てんするために必要な措置を講ずべきことを求める旨の本件監査請求を行った

【関係判例】

(監査請求期間徒過の正当理由)

昭和63年04月22日 集民154.57 (正当な理由の原則的判断基準)

平成14年09月17日 集民207.111 (相当な注意力をもってする調査の事例)

平成14年10月15日 集民208.157 (正当な理由を否定した事例(了知2か月後の請求))

平成18年06月01日 集民220.353 (正当な理由を否定した事例(新聞報道6か月後))

平成20年03月17日 集民227.551 (正当な理由を認めた事例(最終文書開示後1か月))

【判決文の抜粋】

 普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることができなかった場合には,法242条2項ただし書にいう正当な理由の有無は,特段の事情のない限り,当該普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて上記の程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきである(最高裁平成10年(行ツ)第69号,第70号同14年9月12日第一小法廷判決・民集56巻7号1481頁参照)。前記事実関係等によれば,本件団体は,X年7月3日,市のX-1年度の食糧費の支出に関する文書について本件情報公開請求をしたが,食糧費の支出の内容を知るに足りる文書の公開を受けることができなかったところ,X+1年8月19日,本件情報公開請求に係る一般支出決議書等の文書を交付され,それにより,個別の食糧費の支出の日,金額,その内訳及び債権者名並びに食糧費の支出に係る会合の場所,出席人数及び市側の出席者が明らかになったのであるから,支出の件数が多数に及ぶものであったとしても,本件団体の構成員は,同日において,監査請求をするに足りる程度に本件各支出の存在及び内容を知ることができたというべきである。また,同日ころには,市の一般住民においても,同様の手続を採るなど相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて本件各支出について監査請求をするに足りる程度にその存在及び内容を知ることができたというべきである。そうすると,そのころから約4か月弱の期間が経過した同年12月15日にされた本件監査請求は,前記の相当な期間内にされたものということはできない。本件各支出の件数は220件を超えるものであるが,現に文書の公開を受けた本件団体の構成員において,その約3か月後には前記のとおりの分析を終えることができたのにかかわらず,それから更に約25日を経過した後に本件監査請求をしたというのであるから,支出の件数が多数であることなどによって,前記の相当な期間についての判断が左右されるものではない。したがって,本件監査請求に法242条2項ただし書にいう正当な理由があるということはできないと解すべきである。