平成20年03月17日 集民227.551

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【項目】

県警察本部の県外出張に係る旅費の支出のあった日から1年を経過して住民監査請求がされたことについて地方自治法242条2項ただし書にいう正当な理由があるとされた事例

【要旨】

県警察本部の県外出張に係る旅費の支出について住民監査請求がされた場合において,当該住民が県の情報公開条例に基づき上記出張に関する資料の開示を求めたところ,当初は,上記出張の旅行期間,目的地,用務等の事項が開示されず,その部分開示決定に対する異議申立ての結果,初めてこれらの事項が開示されるに至り,その1か月後に上記監査請求がされたなど判示の事実関係の下では,上記監査請求が上記支出のあった日から1年を経過した後にされたことについて地方自治法242条2項ただし書にいう正当な理由がある

【事実関係】

① 県は,X年度及びX+1年度において警察本部総務課の事務連絡又は業務視察を目的とする県外出張に係る旅費支出をした。これらの出張のうち,本住民訴訟における本件各出張は,捜査関係用務による出張とされている

② 県は,X+2年6月12日,議会及び警察を除く同県の全部局で内部調査をした結果として,X年度及びX+1年度において総額約5億8100万円相当の架空の出張による旅費の支出があった旨を公表した。原告は,かねてから当該県以外の警察に架空の出張による裏金作りといった不正経理の疑惑がある旨の報道等があったこともあり,同県の他の部局で行われていた架空の出張による旅費の支出が同県警にないはずはないと考え,同月24日,県情報公開条例に基づき,県知事に対し,X年度及びX+1年度における総務課の職員による出張に関する一切の資料等の開示を求める請求をし,同請求につき同知事がした不受理決定の取消訴訟等を経て,X+6年5月31日,上記出張に係る支出負担行為兼支出命令決議書,旅行命令(依頼)票,復命書等の開示(第1次開示)を受けた。第1次開示において,捜査関係用務以外の用務による出張に関しては,旅行期間,目的地,用務等に関する情報が記録された部分を含めて主要な部分が開示されたが,本件各出張に関しては,支出負担行為兼支出命令決議書につき支出負担行為日,支出命令日,支払日,旅費額等が,旅行命令(依頼)票につき旅行命令日,旅行者氏名,旅行期間,旅行内容,目的地,旅費の支給額及び受領月日等が,復命書につき作成日付,出張者の職及び氏名,用務,用務先,旅行期間等が,それぞれ墨塗りされて開示されなかった。ただし,第1次開示において開示された文書から,本件各出張に係る旅費が一部を除き一般警察活動費から支出された事実は知ることができた。なお,これらの支出がされた当時,県警の捜査部門における捜査関係用務による出張に係る旅費は,刑事警察費から支出されるのが通常であったが,一般警察活動費にも,鉄道警察隊,交番等の捜査活動に関する経費が含まれていた

③ 原告団体(県内に住所を有する権利能力なき社団)の構成員らは,第1次開示において開示された文書から総務課の職員による県外出張の特徴を分析し,X年度及びX+1年度とも1月から3月にかけての出張が多く,特定都市への2年続いての同一時期の出張,同一年度における同一都市への複数回の出張,雪祭りの時期における札幌市への3名の出張,日帰りが可能な○市への泊付きの出張,観光地である京都市及び神戸市への出張等があったことから,総務課の職員による出張の存在及び相当性につき疑いを深め,さらに,本件各出張に係る文書のほとんどが墨塗りされていたことから,本件各出張につき高度の関心を持ち,これらの出張が架空の出張等ではないかとの相当の疑惑を抱くに至ったが,すべての出張の存在及び相当性につき疑いが強いとまでいうことはできないと判断して,X+6年7月19日,上記のような特徴がそろっていると認められるもののみを対象として県監査委員に対し監査請求をし,本件各出張を含むその余の出張については監査請求を見送った

④ 原告は,X+6年10月31日までには,本件各出張の用務が捜査関係用務とされていることを知った。また,原告は,総務課の職員による出張の状況について,第1次開示に係る情報公開請求とは別に,県知事に対し情報公開請求をし,同年4月19日までに開示を受けた文書から,X+3年度以降において1月ないし3月における出張がX年度及びX+1年度の同時期と比較して激減していることを知った。一方,第1次開示に関して,原告は,その部分開示決定を不服として異議申立てを行い,同知事から上記決定を一部変更する旨の決定を受けて,X+8年5月24日,本件各出張に係る支出負担行為兼旅費支出命令決議書,旅行命令(依頼)票及び復命書について,警部補及び警部補相当職以下の職にある者の氏名等を除くすべての事項の開示(第2次開示)を受けた。そして,原告は,X+8年6月24日,県監査委員に対し,本件各出張を含むX年度及びX+1年度における総務課の事務連絡又は業務視察を目的とする県外出張に係る旅費の支出について本件監査請求をした

【関係判例】

(監査請求期間徒過の正当理由)

昭和63年04月22日 集民154.57 (正当な理由の原則的判断基準)

平成14年09月17日 集民207.111 (相当な注意力をもってする調査の事例)

平成14年10月15日 集民208.157 (正当な理由を否定した事例(了知2か月後の請求))

平成17年12月15日 集民218.1151 (正当な理由を否定した事例)

平成18年06月01日 集民220.353 (正当な理由を否定した事例(新聞報道6か月後))

 前記事実関係等によれば,本件各出張に関しては,第1次開示において,支出負担行為兼支出命令決議書につき支出負担行為日,支出命令日,支払日,旅費額等が,旅行命令(依頼)票につき旅行命令日,旅行者氏名,旅行期間,旅行内容,目的地,旅費の支給額及び受領月日等が,復命書につき作成日付,出張者の職及び氏名,用務,用務先,旅行期間等が,それぞれ墨塗りされて開示されず,X+8年5月24日の第2次開示において初めてこれらの事項が開示されたというのである。そうすると,第2次開示によって本件各出張ないし本件各出張に係る旅費の支出について具体的な内容が明らかにされる以前の段階では,上告人において,本件各出張が架空のものであるかどうか,また,業務上必要のないものであるかどうかを判断することは困難であったものというべきである。この段階において原審が掲げる諸事実を根拠として本件各出張が架空のものであるなどと主張したとしても,その主張は単なる憶測の域を出ないものとならざるを得ない。そうであるとすれば,第2次開示によって本件各出張ないし本件各出張に係る旅費の支出について具体的な内容が明らかにされる以前の段階では,上告人において本件各出張に係る旅費の支出に違法又は不当な点があると考えて監査請求をするに足りる程度にその存在及び内容を知ることができたと解することはできず,第2次開示において本件各出張の旅行期間,目的地,用務等に関する情報が記録された部分が開示されてから1か月後に,本件各出張に係る旅費の支出につき本件監査請求がされたことについては,地方自治法242条2項ただし書にいう正当な理由があるというべきである。