平成14年09月17日 集民207.111

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【項目】

売買契約の締結の日及び売買代金の支出の日から1年を経過して住民監査請求がされた場合の,監査請求期間徒過に関する正当な理由

【要旨】

市が公園用地とするために買い受けた土地の売買契約の締結及び売買代金の支出について住民監査請求がされた場合において,買収予定区域を明示した都市計画案の縦覧並びに市への所有権移転登記及び市土地台帳への登録がされ,市の決算説明書の記載から1㎡当たりの売買価格の平均値が明らかとなっていたなど判示の事実関係の下においては,上記決算説明書が一般の閲覧に供されて市の住民がその内容を了知することができるようになったころには,市の住民が相当の注意力をもって上記各書類を調査すれば客観的にみて上記売買契約の締結又は売買代金の支出について監査請求をするに足りる程度にその存在及び内容を知ることができたというべきであり,上記決算説明書が一般の閲覧に供された時期を確定することなく,市議会における売買価格の相当性に関する質疑が新聞報道された時から相当な期間内に監査請求がされたとして,監査請求が上記各行為のあった日から1年を経過した後にされたことについて地方自治法242条2項ただし書にいう正当な理由があるとした原審の判断には,違法がある

【事実関係】

① 市は,公園計画に基づき,不動産鑑定士による鑑定評価及び市公有財産価格審査委員会の審査を経て売買価格を決定した上,X年3月13日本件土地一を1㎡当たり17万円の価格で買い受ける契約一を締結し,市は,同月29日,売買代金を支払った。市は,同様の手続を経た上,X年12月2日,本件土地二を1㎡当たり18万0700円の価格で買い受ける契約二を締結し,市は,X年12月25日,売買代金を支払った。 本件土地一の上記売買価格は,同年3月1日時点における正常価格の約3倍から4.7倍であり,本件土地二の上記売買価格は,同年11月1日時点における正常価格の約4.9倍であった

② …公園整備事業については,市のX-1度予算説明書には,一般会計の歳出の部の土木費(款),公園造成費(項)の「説明」欄に「単独事業,風致公園,…公園」との記載がある。同年度決算説明書には,一般会計の歳出の部の土木費(款),公園造成費(項)の「説明」欄に「補助事業,風致公園,…公園」との,公共用地先行取得事業会計の歳出の部の公共用地先行取得事業の「事業費」欄に「…公園…㎡,…千円」との記載がある。X年度予算説明書には,一般会計の歳出の部の土木費(款),公園造成費(項)の「説明」欄に「補助事業,特殊公園,…公園」との記載がある。同年度決算説明書には,一般会計の歳出の部の土木費(款),公園造成費(項)の「説明」欄に「補助事業,特殊公園,…公園」との記載があり,…公園に係る歳出に関して一部別会計に移された分につき,公共用地先行取得事業会計の歳入の部に記載がある。上記各予算説明書及び決算説明書は,いずれも一般の閲覧に供されていた

③ 議員某は,本件各契約の売買価格に問題があると考え,X+2年9月20日に開かれた議会の一般質問で…公園に係る用地売買価格が異常な高値であったことについて質問し,翌21日上記質疑の内容が新聞で報道された。その新聞記事には,市は,X-1年度において…公園用地として…の土地…㎡を1㎡当たり平均17万円で購入し,X年度において同様に同所の土地…㎡を1㎡当たり平均18万円で購入したこと,市は,X+2年3月,それまで依頼していた不動産鑑定士とは別の不動産鑑定士に依頼して改めて取得予定地の鑑定評価をし,X+1年度において…㎡の土地を1㎡当たり4万7747円で購入したこと,市は,X-1年度及びX年度当時の鑑定内容や購入に至ったいきさつなどを調査していることなどが記載されていた

④ 原告らは,X+2年10月8日,市情報公開条例に基づき,…公園用地の売買契約書等の開示請求を行い,同月22日,請求に係る文書のうち土地の所在,地番,地積及び代金額部分が非開示とされ,その余の部分が開示された。原告らは,同年11月10日ころまで,公図,登記簿謄本等を閲覧するなどして,疑義のある売買契約がされた土地の地番等を特定する作業を行い,同月25日,本件各土地の取得に関し,代金額を正当な価額に是正し,市の被った損害を賠償させる等の適切な措置を講ずることを求める監査請求をした

【関係判例】

(監査請求期間徒過の正当理由)

昭和63年04月22日 集民154.57 (正当な理由の原則的判断基準)

平成14年10月15日 集民208.157 (正当な理由を否定した事例(了知2か月後の請求))

平成17年12月15日 集民218.1151 (正当な理由を否定した事例)

平成18年06月01日 集民220.353 (正当な理由を否定した事例(新聞報道6か月後))

平成20年03月17日 集民227.551 (正当な理由を認めた事例(最終文書開示後1か月))

【判決文の抜粋】

(1) 法242条2項本文は,普通地方公共団体の執行機関,職員の財務会計上の行為は,たとえそれが違法,不当なものであったとしても,いつまでも監査請求ないし住民訴訟の対象となり得るものとしておくことが法的安定性を損ない好ましくないとして,監査請求の期間を定めている。しかし,当該行為が普通地方公共団体の住民に隠れて秘密裡にされ,1年を経過してから初めて明らかになった場合等にもその趣旨を貫くのは相当でないことから,同項ただし書は,「正当な理由」があるときは,例外として,当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過した後であっても,普通地方公共団体の住民が監査請求をすることができるようにしているのである。したがって,上記のように当該行為が秘密裡にされた場合には,同項ただし書にいう正当な理由の有無は,特段の事情のない限り,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたかどうか,また,当該行為を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものである(最高裁昭和62年(行ツ)第76号同63年4月22日第二小法廷判決・裁判集民事154号57頁参照)。そして,当該行為が秘密裡にされた場合に限らず,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることができなかった場合には,上記の趣旨を貫くのは相当でないというべきである。したがって,そのような場合には,上記正当な理由の有無は,特段の事情のない限り,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて上記の程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものである。

(2) 本件監査請求は,本件各土地の売買価格が不当に高額であるとしてされたものであるところ,前記事実関係等によれば,本件各契約に関しては,…公園整備事業都市計画案の縦覧並びに本件各土地につき市への所有権移転登記及び○市土地台帳への登録が前記各日にそれぞれされており,X-1年度及びX年度の各予算説明書及び決算説明書に…公園用地取得のための事業費に関する記載があるというのである。そして,上記各決算説明書の記載によれば,…公園用地の各年度の売買価格の平均値が1㎡当たり約17万円であったことが明らかとなっていたというべきである。そうすると,上記各決算説明書が一般の閲覧に供されて市の住民がその内容を了知することができるようになったころには,市の住民が上記各書類を相当の注意力をもって調査するならば,客観的にみて本件各契約の締結又は代金の支出について監査請求をするに足りる程度にその存在及び内容を知ることができたというべきである。ところが,上記各決算説明書が一般の閲覧に供されて市の住民がその内容を了知することができるようになった時期は,原審の確定するところではなく,記録上も明らかではないから,本件監査請求がその時から相当の期間内に行われたものであるか否かを判断することはできないといわざるを得ない。