平成16年11月25日 民集58.8.2297

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【項目】

監査対象の特定の程度

【要旨】

①住民監査請求においては,対象とする財務会計上の行為又は怠る事実を,他の事項から区別し特定して認識することができるように,個別的,具体的に摘示することを要するが,監査請求書及びこれに添付された事実を証する書面の各記載,監査請求人が提出したその他の資料等を総合して,住民監査請求の対象が特定の財務会計上の行為等であることを監査委員が認識することができる程度に摘示されているのであれば,これをもって足りるのであり,このことは,対象とする財務会計上の行為等が複数である場合であっても異ならない

②県が,複数年度につき特定の費目に該当する費用の支出について個々の支出ごとに不適切な支出であるかどうかを検討する調査を行い,不適切な支出の合計額を公表したという事実関係の下においては,上記の調査において不適切とされた支出が違法な公金の支出であるとしてされた住民監査請求は,対象とする各支出について,支出した部課,支出年月日,金額,支出先等の詳細を個別的,具体的に摘示していなくとも,請求の対象の特定に欠けるところはない

【事実関係】

① 県は,かねてから,複写機リース会社との間で複数の複写機リース契約を締結し,部課ごとに使用枚数に応じた複写機使用料を支払っており,X年度からX+4年度までの県庁全体の複写機使用料支出は約20億円であったが,複写機使用料に係る支出に関し,不正の疑いが生じたことから,県は調査を実施し,X+5年…日,X+2年度の支出のうち2億2412万4000円は正規のものではない不適切なものであることを明らかにし,さらに,同年…日,X年度からX+4年度までの支出のうち6億4433万6000円は正規のものではない不適切なものであることを公表した。県の上記調査においては,対象期間中の複写機使用料に係る個々の支出ごとに不適切な支出であるかどうかが検討された

② 原告は,X+5年10月15日,監査委員に対し,X年度,X+1年度,X+3年度及びX+4年度の県庁全体の複写機使用料に係る支出について住民監査請求をした。監査請求書には,請求の要旨として,「○県は,本年…日,X年度からX+4年度の○県庁全庁の複写機使用料の支出についての内部調査結果を発表し,過去5年分にわたる複写機使用料のうち架空使用分の水増し支出の総額は,6億4433万6000円にものぼることが判明した。このうちX+2年度の複写機使用料の水増し支出額は2億2412万4000円であるから,X+2年度を除く過去5年の右水増し支出額合計は,4億2021万2000円である。(中略)よって,監査委員は,X+2年度を除くX年度からX+4年度の○県庁全庁の複写機使用料のうち架空使用であるにもかかわらず違法に支出した4億2021万2000円を○県知事に損害賠償をさせる等,右違法支出による県の損害の填補に必要な措置,及びその他の措置を直ちに講ぜよ。」と記載され,事実を証する書面として,関連する新聞記事が添付されていた

【関連判例】

(監査対象の特定)

平成02年06月05日 民集44.4.719 (監査対象の特定程度:原則)

平成16年12月07日 集民215.869 (同11月25日判決と同旨)

平成18年04月25日 民集60.4.1841 (特定事業に関わる支出全体に関する対象の特定)

【判決文の抜粋】

 住民監査請求においては,対象とする財務会計上の行為又は怠る事実(以下「当該行為等」という。)を,他の事項から区別し特定して認識することができるように,個別的,具体的に摘示することを要するが,監査請求書及びこれに添付された事実を証する書面の各記載,監査請求人が提出したその他の資料等を総合して,住民監査請求の対象が特定の当該行為等であることを監査委員が認識することができる程度に摘示されているのであれば,これをもって足りるのであり,上記の程度を超えてまで当該行為等を個別的,具体的に摘示することを要するものではないというべきである。そして,この理は,当該行為等が複数である場合であっても異なるものではない【要旨①】。最高裁平成元年(行ツ)第68号同2年6月5日第三小法廷判決・民集44巻4号719頁は,以上と異なる趣旨をいうものではない。

 前記事実関係等によれば,本件監査請求は,X年度,X+1年度,X+3年度及びX+4年度の県庁全体の複写機使用料に係る支出のうち,県の調査の結果不適切とされたものの合計額4億2021万2000円が違法な公金の支出であるとして,これによる県の損害を補てんするために必要な措置等を講ずることを求めるものであり,県の上記調査においては,対象期間中の複写機使用料に係る個々の支出ごとに不適切な支出であるかどうかが検討されたというのであるから,本件監査請求において,対象とする各支出について,支出した部課,支出年月日,金額,支出先等の詳細が個別的,具体的に摘示されていなくとも,県監査委員において,本件監査請求の対象を特定して認識することができる程度に摘示されていたものということができる【要旨②】。

 そうすると,本件監査請求は,請求の対象の特定に欠けるところはないというべきである。