平成05年09月07日 民集47.7.4755

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【項目】

差止請求の対象の特定の程度

【要旨】

地方自治法242条の2第1項1号に基づく差止請求において、複数の行為を包括的にとらえて差止請求の対象とする場合、その一つ一つの行為を個別、具体的に摘示することまでが常に必要とされるものではなく、当該行為の適否の判断のほか、当該行為が行われることが相当の確実さをもって予測されるか否かの点及び当該行為により当該普通地方公共団体に回復の困難な損害を生ずるおそれがあるか否かの点について判断することが可能な程度に、対象行為の範囲が特定されていることが必要であり、かつ、これをもって足りる

【事実関係】

市は瀬戸内海に面する自然海浜を埋め立てるため、公有水面埋立免許を取得したが、住民が、同免許は瀬戸内海環境保全特別措置法13条等に違反する違法なものであるから、これに基づいて市が行う埋立工事も違法であり、したがって、本件埋立てのために市長のする公金の支出もまた違法であるとして、地方自治法242条の2第1項1号に基づき、市長に対し公金支出の差止め(控訴審における請求の趣旨は「同免許に基づく埋立工事等に関する一切の公金の支出をしてはならない」)を請求

【関連判例】

(監査対象の特定)

平成02年06月05日 民集44.4.719 (監査対象の特定程度:原則)

平成16年11月25日 民集58.8.2297 (請求人提出外資料を総合した監査対象の特定)

平成16年12月07日 集民215.869 (同11月25日判決と同旨)

平成18年04月25日 民集60.4.1841 (特定事業に関わる支出全体に関する対象の特定)

【判決文の抜粋】

 地方自治法242条の2第1項1号の規定による住民訴訟の制度は、普通地方公共団体の執行機関又は職員による同法242条1項所定の財務会計上の違法な行為を予防するため、一定の要件の下に、住民に対し当該行為の全部又は一部の事前の差止めを裁判所に請求する権能を与え、もって地方財務行政の適正な運営を確保することを目的としたものである。このような事前の差止請求において、複数の行為を包括的にとらえて差止請求の対象とする場合、その一つ一つの行為を他の行為と区別して特定し認識することができるように個別、具体的に摘示することまでが常に必要とされるものではない。この場合においては、差止請求の対象となる行為とそうでない行為とが識別できる程度に特定されていることが必要であることはいうまでもないが、事前の差止請求にあっては、当該行為の適否の判断のほか、さらに、当該行為が行われることが相当の確実さをもって予測されるか否かの点及び当該行為により当該普通地方公共団体に回復の困難な損害を生ずるおそれがあるか否かの点に対する判断が必要となることからすれば、これらの点について判断することが可能な程度に、その対象となる行為の範囲等が特定されていることが必要であり、かつ、これをもって足りるものというべきである。このような観点からすると、例えば、特定の工事の完成に向けて行われる一連の財務会計上の行為についてその差止めを求めるような場合には、通常は、右工事自体を特定することにより、差止請求の対象となる行為の範囲を識別することができ、また、右特定の工事自体が違法であることを当該行為の違法事由としているときは、当該行為を全体として一体とみてその適否等を判断することができるというべきであるから、右工事にかかわる個々の行為の一つ一つを個別、具体的に摘示しなくても、差止請求の対象は特定されていることになるものというべきである。

 これを本件についてみるのに、前記の上告人らの本件訴えの内容からすると、本件の請求は、本件埋立て等に関して被上告人のする一切の公金の支出の包括的な差止めをその趣旨とするものであり、専ら本件埋立免許及びそれに基づく本件埋立てが違法であることを理由とし、そのため本件埋立免許を前提として今後被上告人のする本件埋立ての完成に向けての一連の経費の支出も包括的に違法なものになるとして、その差止めを求めていることが明らかである。そうすると、本件訴えにおいては、差止請求の対象となる本件公金支出の範囲を識別することができ、また、これを全体として一体とみてその適否を判断することが可能であり、さらに、これが行われることが相当の確実さをもって予測されるか否か、回復困難な損害が生ずるか否かの点をも判断することが可能であるから、請求の趣旨の特定として欠けるところはないものというべきである。