平成02年06月05日 民集44.4.719

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【項目】

住民監査請求における対象の特定の程度

【要旨】

住民監査請求は、その対象とする財務会計上の行為又は怠る事実を他の事項から区別し、特定して認識できるように個別的、具体的に摘示し、また右行為等が複数である場合には、右行為等の性質、目的等に照らしこれらを一体とみてその違法又は不当性を判断するのを相当とする場合を除き、各行為等を他の行為等と区別し、特定して認識できるように個別的、具体的に摘示してしなければならない

【関連判例】

(監査対象の特定)

平成02年06月05日 民集44.4.719 (監査対象の特定程度:原則)

平成16年11月25日 民集58.8.2297 (請求人提出外資料を総合した監査対象の特定)

平成16年12月07日 集民215.869 (同11月25日判決と同旨)

平成18年04月25日 民集60.4.1841 (特定事業に関わる支出全体に関する対象の特定)

【事実関係】

 「元○○企業管理者B1…ら、X年度からX+2年度までの間に○○企業管理…の職にあった者は、右各年度において、名義を仮装し、会議接待を行ったとして、会議接待費又は工事諸費の名目のもとに、3年間で5千万円以上の金額を不当に支出し、又は部下の不当支出を決裁した。首長○は、財産管理について通常必要な注意を怠って、右の行為が反復して繰返されているにもかかわらず、これを放置し、○○自治体及び○○住民に対する損害を防止するための処置をとらなかった」との住民監査請求がなされ、「架空接待5千万円超す」等の見出しで、○○部において不正に支出された公金は、X年からX+2年までの3年間で、市民オンブズマンが検察庁に告発した額の20倍である5千万円以上にのぼり、架空接待は、○○部の4課のうち、○課を除く…の各課で、会議接待費が予算を超過すると、工事諸費等の名目で行われていたなどと報道した新聞記事を、事実証明書として請求に添付した

【判決文の抜粋】

 地方自治法…242条1項は、普通地方公共団体の住民は、当該普通地方公共団体の執行機関又は職員について、財務会計上の違法若しくは不当な行為又は怠る事実があると認めるときは、これらを証する書面を添え、監査委員に対し、監査を求め、必要な措置を講ずべきことを請求することができる旨規定しているところ、右規定は、住民に対し、当該普通地方公共団体の執行機関又は職員による一定の具体的な財務会計上の行為又は怠る事実(以下、財務会計上の行為又は怠る事実を「当該行為等」という。)に限って、その監査と非違の防止、是正の措置とを監査委員に請求する権能を認めたものであって、それ以上に、一定の期間にわたる当該行為等を包括して、これを具体的に特定することなく、監査委員に監査を求めるなどの権能までを認めたものではないと解するのが相当である。けだし、法が、直接請求の一つとして事務の監査請求の制度を設け、選挙権を有する者は、その総数の50分の1以上の者の連署をもって、監査委員に対し、当該普通地方公共団体の事務等の執行に関し監査の請求をすることができる旨規定している(75条)ことと対比してみても、また、住民監査請求が、具体的な違法行為等についてその防止、是正を請求する制度である住民訴訟の前置手続として位置付けられ、不当な当該行為等をも対象とすることができるものとされているほかは、規定上その対象となる当該行為等について住民訴訟との間に区別が設けられていないことからみても、住民監査請求は住民一人からでもすることができるとされている反面、その対象は一定の具体的な当該行為等に限定されていると解するのが、法の趣旨に沿うものといわなければならない。さらに、法242条1項が、監査請求は、違法又は不当な当該行為等があることを証する書面を添えてすべきものと規定し、同条2項が、監査請求は、当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過したときは、正当な理由があるときを除き、これをすることができないと規定しているのは、住民監査請求の対象となる当該行為等が具体的に特定されることを前提としているものとして理解されるのである。

 したがって、住民監査請求においては、対象とする当該行為等を監査委員が行うべき監査の端緒を与える程度に特定すれば足りるというものではなく、当該行為等を他の事項から区別して特定認識できるように個別的、具体的に摘示することを要し、また、当該行為等が複数である場合には、当該行為等の性質、目的等に照らしこれらを一体とみてその違法又は不当性を判断するのを相当とする場合を除き、各行為等を他の行為等と区別して特定認識できるように個別的、具体的に摘示することを要するものというべきであり、監査請求書及びこれに添付された事実を証する書面の各記載、監査請求人が提出したその他の資料等を総合しても、監査請求の対象が右の程度に具体的に摘示されていないと認められるときは、当該監査請求は、請求の特定を欠くものとして不適法であり、監査委員は右請求について監査をする義務を負わないものといわなければならない。

 右事実によれば、本件監査請求の対象とされている行為は、○○部の…の各課におけるX年度からX+2年度までの3予算年度にわたる会議接待費等の名目による複数回の公金の支出であることが理解されるが、右のような種類の公金の支出の違法又は不当性は、事柄の性質上個々の支出ごとに判断するほかないと考えられるから、右公金の支出についての監査請求においては、各公金の支出を他の支出から区別して特定認識できるように個別的、具体的に摘示することを要するものというべきである。しかるに、右公金の支出については、支出時期が3予算年度にわたり、上告人らが本件監査請求に先立って提起した3件の住民訴訟において主張済みの第1審判決添付の違法支出行為内訳表()ないし()からすると、支出回数は数百回を超える程度の多数回にのぼるものとみられるにもかかわらず、支出の名目が会議接待費あるいは工事諸費と特定されているだけで、個々の支出についての日時、支出金額、支出先、支出目的等が明らかにされていないのみならず、支出総額も5千万円以上という不特定なものであって、前記○日付の○○新聞の記事を併せてみても、本件監査請求において、各公金の支出が他の支出と区別して特定認識できる程度に個別的、具体的に摘示されているものと認めることはできない。したがって、本件監査請求は、請求の特定を欠くものとして不適法というべきである。