平成16年12月07日 集民215.869

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【項目】

監査対象の特定の程度(平成16年11月25日 民集58.8.2297と事案概要・判旨は同じ)

【要旨】

①住民監査請求においては,対象とする財務会計上の行為又は怠る事実を,他の事項から区別し特定して認識することができるように,個別的,具体的に摘示することを要するが,監査請求書及びこれに添付された事実を証する書面の各記載,監査請求人が提出したその他の資料等を総合して,住民監査請求の対象が特定の財務会計上の行為等であることを監査委員が認識することができる程度に摘示されているのであれば,これをもって足りるのであり,このことは,対象とする財務会計上の行為等が複数である場合であっても異ならない

②県が,複数年度の旅費の支出について1件ごとに調査し,公務出張の事実がないのにされた支出を事務処理上不適切な支出として,その合計額を公表したという事実関係の下においては,上記の調査において事務処理上不適切な支出とされたものが違法な公金の支出であるとしてされた住民監査請求は,対象とする各支出について,支出に係る部課,支出年月日,支出金額等の詳細を個別的,具体的に摘示していなくとも,請求の対象の特定に欠けるところはない

【事実関係】

① 県は,架空出張事案が明らかになったことを受けて,すべての県職員の旅費の支出について調査を実施することとし,知事部局等に旅費調査委員会が設置され,X年度からX+2年度までの知事部局等における旅費の支出並びにX+3年4月から12月までの旅費の支出について,1件ごとに不適切なものであるかどうかを調査した上,「旅費調査結果と改善方策に関する報告書」と題する報告書を作成し,X+4年3月10日,これを公表した。同報告書は,公務出張の事実がないのにされた旅費の支出を事務処理上不適切な支出とし,これを更に公務遂行上の経費に充てられたものと不適正なものとに分類して,旅費調査委員会の調査結果を集計している。

② 原告は,X+4年8月17日,県監査委員に対し,旅費調査委員会の調査の結果,事務処理上不適切な支出で公務遂行上の経費に充てられたものとされたX年度からX+2年度までの旅費14億6735万4220円…は,公務出張の事実がないのに支出された違法なものであるとして,これによって生じた損害をてん補するために必要な措置を講ずることを求める旨を記載した監査請求書を,事実を証する書面と共に提出し,住民監査請求を行った。

【関連判例】

(監査対象の特定)

平成02年06月05日 民集44.4.719 (監査対象の特定程度:原則)

平成16年11月25日 民集58.8.2297 (請求人提出外資料を総合した監査対象の特定)

平成18年04月25日 民集60.4.1841 (特定事業に関わる支出全体に関する対象の特定)

【判決文の抜粋】

 住民監査請求においては,対象とする財務会計上の行為又は怠る事実(以下「当該行為等」という。)を,他の事項から区別し特定して認識することができるように,個別的,具体的に摘示することを要するが,監査請求書及びこれに添付された事実を証する書面の各記載,監査請求人が提出したその他の資料等を総合して,住民監査請求の対象が特定の当該行為等であることを監査委員が認識することができる程度に摘示されているのであれば,これをもって足りるのであり,上記の程度を超えてまで当該行為等を個別的,具体的に摘示することを要するものではないというべきである。そして,この理は,当該行為等が複数である場合であっても異なるものではない【要旨①】。最高裁平成元年(行ツ)第68号同2年6月5日第三小法廷判決・民集44巻4号719頁は,以上と異なる趣旨をいうものではない。

 前記事実関係等によれば,本件監査請求は,旅費調査委員会等の各調査においてそれぞれ事務処理上不適切な支出とされたものである本件各旅費の支出が違法な公金の支出であるとして,これによる県の損害をてん補するために必要な措置を講ずることを求めるものであり,旅費調査委員会等の各調査においては,それぞれ対象とする旅費の支出について1件ごとに不適切なものであるかどうかを調査したというのであるから,本件監査請求において,対象とする各支出,すなわち,支出負担行為,支出命令及び法232条の4第1項にいう狭義の支出について,支出に係る部課,支出年月日,支出金額等の詳細が個別的,具体的に摘示されていなくとも,県監査委員において,本件監査請求の対象を特定して認識することができる程度に摘示されていたものということができる【要旨②】。そうすると,本件監査請求は,請求の対象の特定に欠けるところはないというべきである。

5 ところで,前記事実関係等によれば,本件監査請求がされたのはX+4年8月17日であるというのであるから,本件各旅費…の支出負担行為及び支出命令のうちX+3年8月16日以前にされたもの…については,法242条2項本文所定の監査請求期間が経過していることは明らかである。そして,前記事実関係等によれば,県の住民は,相当の注意力をもって調査すれば遅くとも旅費調査委員会等の前記各報告書が公表されたX+4年3月10日ころには,客観的にみて監査請求をすることができる程度にX+3年8月16日以前の支出負担行為等の存在及び内容を知ることができたというべきであり,その時点から5か月以上が経過した後にされた本件監査請求は同時点から相当な期間内にされたものということはできないから,X+3年8月16日以前の支出負担行為等については,同項ただし書にいう正当な理由があるということはできない。

 そうすると,本件訴えのうちX+3年8月16日以前の支出負担行為等についての損害賠償請求に係る部分を不適法として却下すべきものとした原審の判断は,結論において是認することができる。