昭和34年07月20日 民集13.8.1103

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【項目】

住民訴訟の制度的位置付け

【要旨】

旧地方自治法243条の2のような訴訟の制度を設けるか否かは立法政策の問題であり、これを設けないことが、地方自治の本旨に反するとはいえない

【事実関係】

(略)

【判決文の抜粋】

 論旨は、原判決が地方自治法(旧)243条の2の遡及適用がないとしたのは、憲法92条、94条、98条に違反すると主張する。しかし憲法92条は、地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める、と規定しているだけで、「地方自治の本旨」が何であるかを具体的に明示してはいない。そして地方自治法(旧)243条の2のような訴訟の制度を設けるか否かは立法政策の問題であって、これを設けないからとて、地方自治の本旨に反するとはいえない。従ってかかる制度を設けていなかった、昭和23年7月の改正以前の地方自治法を憲法92条に違反するものということはできないし、また右の改正によって始めてかかる制度を設けた規定の遡及適用を否定した原判決を同法条に違反するものということもできない。原判決が憲法94条、98条に違反しないことはいうまでもない。

 次に憲法適否の問題を離れて、地方自治法(旧)243条の2の遡及適用があるかどうかを考えてみるに、同条によって住民が監査の請求をしさらに訴訟を提起することができるのは、手続法上の権利ではなく実体法上の権利であり、昭和23年7月法律179号によってはじめて住民に与えられた権利である。従って、右の権利の認められる以前の事実に関して右の権利を行使することは、法律の経過規定に特別の規定がない以上ゆるされないものと解するのが相当である。

 論旨はまた、原判決が地方自治法2条8項(現在では11項)に反する旨を主張するのであるが、同法243条の2の訴が、前述のように地方公共団体の住民の当然の権利として認められるものでない以上、右2条8項によっても、243条の2の遡及適用を認めなければならないものではない。論旨はすべて理由がない。