昭和61年02月27日 民集40.1.88

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【項目】

①地方自治法243条の2による責任の発生時点

②地方自治法243条の2の首長への適用可否(首長の自治体への損賠責任の発生根拠)

【項目】

①地方自治法243条の2による責任の発生時点

②地方自治法243条の2の首長への適用可否(首長の自治体への損賠責任の発生根拠

【一部旧規定下】

【事実関係】

首長交際費の支出に関する、首長を被告とする4号訴訟であり、原審は、次により訴えを却下

① 普通地方公共団体の一定の職員の行為について、当該職員の地方公共団体に対する賠償責任の特則を定めた地方自治法243条の2第1項の規定が適用されるべき場合には、当該職員の賠償責任の存否若しくは範囲の決定又はその責任の実現は、専ら同条所定の手続によってのみ図られるべきものであるから、住民が地方公共団体の有する請求権を代位行使することを認めた地方自治法242条の2第1項4号の規定によるいわゆる代位請求訴訟は不適法である

② 地方自治法243条の2の規定は、普通地方公共団体の長の賠償責任についても適用されると解すべきであり、本訴請求が被上告人自ら支出負担行為又は支出命令をしたことを理由とするものであれば、同条の規定が適用されるべき場合にあたるから、本件訴えは不適法である

③ 仮に、本件訴えが被上告人(首長)自ら支出負担行為又は支出命令をしたことを理由とするものではなく、かかる行為をする権限を委任された補助職員による右委任事務の処理について被上告人に指揮監督義務違背があることを理由とするものであっても、その賠償責任については地方自治法243条の2の規定が類推適用され、専ら同条所定の手続によってのみ右賠償責任の存否若しくは範囲の決定又はその責任の実現が図られるべきものであるから、いずれにしても本件訴えは不適法である

【判決文の抜粋】

 …(地方自治)法243条の2の規定は、同条1項所定の職員の行為に関する限りその損害賠償責任については民法の規定を排除し、その責任の有無又は範囲は専ら同条1、2項の規定によるものとし、また、右職員の行為により当該地方公共団体が損害を被った場合に、賠償命令という地方公共団体内部における簡便な責任追及の方法を設けることによって損害の補てんを容易にしようとした点にその特殊性を有するものにすぎず、当該地方公共団体の右職員に対する損害賠償請求権は、同条1項所定の要件を充たす事実があればこれによって実体法上直ちに発生する【要旨①】ものと解するのが相当であり、同条3項に規定する長の賠償命令をまって初めてその請求権が発生するとされたものと解すべきではない。なお、法243条の2第3項以下の規定によれば、同条は、当該地方公共団体の長の発する賠償命令につき、不服申立手続を規定し、かつ、3年間の除斥期間を設けているが、このゆえに、同条が同条1項所定の職員の行為について同条3項に規定する賠償命令による以外にその責任を追及されることがないことまでをも保障した趣旨のものであると解することはできない(同条1項所定の職員の行為により生じた当該地方公共団体の損害賠償請求権については、その性質上、賠償命令の除斥期間とは別に、法236条の債権の消滅時効の規定の適用があるものと解される。)。

 そして、普通地方公共団体の長は、当該地方公共団体の条例、予算その他の議会の議決に基づく事務その他公共団体の事務を自らの判断と責任において誠実に管理し及び執行する義務を負い(法138条の2)、予算についてその調製権、議会提出権、付再議権、原案執行権及び執行状況調査権等広範な権限を有するものであって(法176条、177条、211条、218条、221条)、その職責に鑑みると、普通地方公共団体の長の行為による賠償責任については、他の職員と異なる取扱をされることもやむを得ないものであり、右のような普通地方公共団体の長の職責並びに前述のような法243条の2の規定の趣旨及び内容に照らせば、同条1項所定の職員には当該地方公共団体の長は含まれず、普通地方公共団体の長の当該地方公共団体に対する賠償責任については民法の規定による【要旨②】ものと解するのが相当である。

 そうすると、法242条の2第1項4号の規定に基づく損害補てんの代位請求訴訟においては、当該訴訟が法243条の2第1項所定の職員に対し同項所定の行為を理由として損害の補てんを求めるものであるか否かによって訴えの適否が左右されるものと解すべき理由はないのみならず、当該訴訟が当該地方公共団体の長の行為による損害の補てんを求めるものである場合には、実体法的にも法243条の2の規定を顧慮する必要はないものといわなければならない。

三 以上と異なり、上告人らが本訴請求の原因とする被上告人の本件交際費支出行為について、普通地方公共団体の長も法243条の2第1項所定の賠償責任の対象職員に含まれ、本件は同項の規定が適用されるべき場合にあたり、かかる場合には住民は法242条の2第1項4号の規定による損害補てんの代位請求訴訟を提起することができないものであるとして、本件訴えを不適法とした原審の判断は、ひっきょう、右各規定の解釈適用を誤ったものであるといわなければならず、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。